36.『植木屋のおじさん』(名刺SSテキスト版)
「若、こんな所にいらしたんですか? 危ないですから、部屋に入りましょう」
「やだよ。だって、葉っぱ切るの見たいもん」
「我儘言わないで。犬山が叱られてしまいます」
「ちぇーっ。つまんない」
「さ、行きましょう。……おや、紙飛行機ですか?」
「うん。でも、あんまり飛ばないの」
「どれ、犬山が作って差し上げます。一回飛ばしたらおしまいですよ」
「わかった」
ひゅう~、パスッ。
「飛ばないよ」
「おかしいですねぇ」
「坊ちゃん、私が作って差し上げましょうか?」
「いいの?」
植木屋のおじさんの作った紙飛行機はすごいんだ。
ぴゅーって飛ぶの。
ながーく飛ぶの。
「うわぁ、すごい!」
「でしょう? 倅が好きでねぇ。誰にも教えちゃダメですよ。さ、お部屋に戻って下さい。危ねえですからね」
「わかった。ありがとう、おじさん」
「日向さん、遊んでないで早く宿題終わらせなよ」
「うーん、やる気でねぇ」
日向さんはルーズリーフを一枚外した。
「いてっ。何、遊んでんのさ。ガキみたいな事して遊ぶなって……あ、これ、オリジナル?」
「おお。すっげー飛ぶだろ?」
「倅」
「は?」
「植木屋のおじさんの言ってたのって……」
「なんだよ、それ。ぜんっぜん分かんないんだけど」
「秘密。誰にも教えちゃいけないんだ。約束だから」
日向父、植木屋妄想
(2019.4.21 twitter投稿)リメイク