46.『やりたいこと』(名刺SSテキスト版)
「やりたいことって?」
「セックス」
「…………」
「なんだよ?」
「あっきれた」
「しょーがねーだろ。やりたいもんはやりたいんだから」
「ま、いーや。じゃあ、やれることは?」
「んー、キス、とか?」
「…………」
「なんだよ! いちいち黙るなよ。おっかねーから」
「やらなきゃいけないことはわかるよね」
「さーて、なんだったかなぁ」
「宿題! やらなきゃいけないことは、ためにためた宿題の山をどーにかすること」
「無理だし」
「無理じゃないっ」
「シャーペンの芯なくなった」
若島津は「ったく」と言って俺の手からシャーペンを取り上げた。
口調は怖かったが、手つきはそうでもなかった。
「俺はuni派だ」
「俺もだから大丈夫!」
「なぁ……」
「わかったってば」
「マジ?」
「宿題、終わったらね」と言いながら、あいつは椅子の角度を変えた。
俺も少し椅子の角度を変えた。
紙を捲る音、鉛筆を走らせる音、座り直しているのか、時々椅子も音を鳴らす。
「日向さん、あと30分くらいで終わるから」
「じゃあ、俺も30分を目標にする」
ったく、忙しくてかなわねぇなぁ。
だけど、こんな風に互いに背を向けて同じことをやるのも悪くない。
「今日は後ろからな」
「うるさいっ。集中しろよ」
(2019.4.29 twitter投稿)リメイク