51.『俺の手』(名刺SSテキスト版)
膝をついて向き合うと、「逆」と言われた。
彼は、俺の手をとって左手で胸の上を滑らせ、右手でぺニスを握らせた。
なんでこんな事をするのか、と訊ねたら、「なんでかなぁ」と答えた。
自慰の延長みたいで恥ずかしくてたまらなかった。
けれども、自分の手であって自分の手ではないような、そんな気がして、その手を払おうとは思わなかった。
「見てるか?」
「見ていない」
「見てみろよ」
「見ない」
こんな風に、彼は時々「見ろ」と言う。
そして、その後に必ず「俺の動きを忘れんなよ」と言うのだ。
翌日、一人になった部屋で、俺は彼の手を思い出しながら自慰をした。
ああ、そうか。そういうことか……。
今、俺の手は彼の動きをしている。
(2019.5.2 twitter投稿)リメイク