64.『空が青い』(名刺SSテキスト版)
「そうだけど……気になる」
日付が変わろうとしているのに、やけに気になって窓を二枚拭いた。
「外側拭かなきゃ綺麗にならねえだろ」と日向さんはベランダへ出た。
「外は俺がやるから」と言ったけれど、「ごたごた言ってないで手を動かせ」と、ピシャリと窓を閉められる。
俺の手の動きにあわせ、あの人の手も動く。
闇を背にした日向さんはとても綺麗で、恰好いいとかそんなんじゃなくて、本当に泣きたくなるくらい綺麗で、ついつい見とれてしまったんだ。
「さみぃー」
「ごめん」
「綺麗になったか? 夜だからあんまり、わからねぇな」
「ううん、綺麗だった。すごく、すごく」
冷たくなった手を握りしめて、そこに唇を寄せた。
「どうした? 今日のお前は変だな」
「そうかな?」
全てわかったように、彼はクッと喉の奥で笑った。
あくる朝、カーテンを開けると、空が昨日よりも青かった。
昨日よりもコーヒーが美味しくて、
昨日よりも目玉焼きが上手く焼けて、
昨日よりも、この人が好きになった。
毎日、毎日、好きになる。
「若島津」
「なに?」
「お前、今日は一段と綺麗だな」
「バカ、なに言ってんだよ。窓が少し綺麗になっただけ」
(2019.5.18twitter投稿)リメイク