C翼二次創作/小次健love!  

50.『体温』(名刺SSテキスト版)

いつも通りに目覚ましがなって、瞼をこじ開けると一人だった。
覚醒しきらない頭で一分ほど考えて、のそのそ起き上がってリビングへ行く。

いた。

猫みたいに丸くなって、あいつはソファにころんと横になっていた。
『ほーら、畳むとこんなにコンパクト』
何かのコピーのような言葉が浮かんだ。

「風邪ひくぞ」
「……んあ?」

すっとぼけた声をだしやがって。
だけど、スンと鼻を啜ったりするものだから、「ほら」とグイと引き寄せた。

「あったかい」
「何やってんだよ」
「夜中に目が覚めて、それから眠れなくて、雑誌捲ったり、お茶飲んだり、……そんなとこ」 

暫くの間、俺の体温を吸い取ってから、満足したようにするりと離れていった。

「上着借りた。……ごめん。シワになった」

「いつの間に寝たんだろうなぁ」とボリボリ暢気に頭なんかかきやがって。
シワのよったコートに少しばかり嫉妬した。

「やっぱり、生身の方がいいや」
「あったりめーだ」

「なぁ、あいつ、なんて言ってだ?」

コートに話しかける俺は、かなりいかれている。




(2019.5.2 twitter投稿)リメイク





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49.『結婚したい』(名刺SSテキスト版)

寮では仕方なくやってただけで、若島津は家事全般ダメダメだ。
やる気はあるけど得意じゃない、というのとも違う。
やってくれる人がいれば、やる気ゼロになるヤツなのだ。
で、今日は洗濯カゴを持ってうちに来たわけで……。
俺は今からこいつの洗濯ものをだな、

「おまえ、こんなパンツ履いてんのか?」
「ファンからもらった。……てかさぁ、いちいち俺のパンツチェックしないでくれる?」
「だったら自分で洗えよな!」
「他人様の洗濯機を壊したら悪いじゃん」
「どうやって壊すんだよ。洗濯もん放りこんでスィッチ押しゃあ勝手に洗ってくれるんだよ」
「日向さん、腹減ったぁ。なんか作ってよー」
「いきなり話の向きを変えるな」
「俺、日向さんのチャーハンが食べたくて来たのに……」

洗濯じゃねーのかよ。

「日向さんのチャーハン食べた後の試合ってめちゃめちゃ調子いいのに……」

まぁ、悪い気はしねぇな。

「それから、日向さんに洗ってもらったパンツ履くと必ず勝つしさぁ~」

これもだな。

「俺、日向さんと結婚したいなぁ~」

えっ!!!

「日向さん、なんで赤くなってんの???」



(2019.5.1 twitter投稿)リメイク



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48.『ありがとう』(名刺SSテキスト版)

恥ずかしがりやの恋人に言う。

「何故後ろにいるんです?」

彼は「別に意味はない」と言ったけれど、回した腕にぎゅっと力を込めた。

こんな夜には、彼に出会えて本当によかったと思う。
温かな場所がある事に「ありがとう」と言いたくなる。

「日向さん、あったかい」
「そうか? お前の方があったかいぞ」

触れる事で気づく事もある。
寒かったんだ、とか、どうりで落ちつかないはずだ、とか……。
そんな日は、何故だかこっそり触れたくて、

「だから?」
「何が?」
「だから後ろにいるの?」

彼は「何でも理由をつけたがるヤツだな」の後に「言いやすいだろ?」とぼそりと言った。

「なにを?」
「訊くくなよ…」
「訊きたい。言いやすいって何を?」

くるりと正面に回った彼は、いつもと同じ日向さんだった。

「二回も言ってやんねえよ」

同じ言葉だったらいいな。

『神様、ありがとう。彼に合わせてくれて』





(2019.5.1 twitter投稿)リメイク






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47.『今までも、これからも、』(名刺SSテキスト版)

いつも通りに飯を食い、いつも通りに風呂に入り、いつもそうするように寝る支度をした。

「明日から『令和』だな」

先にベッドに入ってスマホを弄っていたあいつに言うと、

「そうなんだよねぇ」と、いかにも実感が沸かないというようにベッドサイドテーブルにスマホを置いた。

「いつもと同じでいいよ」
「改まって言われるとなぁ」
「いつもと同じことをするのにきっかけが必要?」

悪戯っぽく笑いながら、ポン、ポーンと枕を叩く。

「きっかけ、なんてなぁ」

言いながらベッドに身体を半分乗せたあたりであいつが言った。

「今までも、これからも、あんただけだから」




貴方は小次健で『唯一の』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/375517
(2019.4.30 Twitter投稿)


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46.『やりたいこと』(名刺SSテキスト版)

「やりたいこととやれることのギャップがありすぎる」
「やりたいことって?」
「セックス」
「…………」

「なんだよ?」
「あっきれた」
「しょーがねーだろ。やりたいもんはやりたいんだから」
「ま、いーや。じゃあ、やれることは?」
「んー、キス、とか?」
「…………」

「なんだよ! いちいち黙るなよ。おっかねーから」
「やらなきゃいけないことはわかるよね」
「さーて、なんだったかなぁ」
「宿題! やらなきゃいけないことは、ためにためた宿題の山をどーにかすること」
「無理だし」
「無理じゃないっ」
「シャーペンの芯なくなった」

若島津は「ったく」と言って俺の手からシャーペンを取り上げた。
口調は怖かったが、手つきはそうでもなかった。

「俺はuni派だ」
「俺もだから大丈夫!」
「なぁ……」
「わかったってば」
「マジ?」

「宿題、終わったらね」と言いながら、あいつは椅子の角度を変えた。
俺も少し椅子の角度を変えた。

紙を捲る音、鉛筆を走らせる音、座り直しているのか、時々椅子も音を鳴らす。

「日向さん、あと30分くらいで終わるから」
「じゃあ、俺も30分を目標にする」

ったく、忙しくてかなわねぇなぁ。
だけど、こんな風に互いに背を向けて同じことをやるのも悪くない。

「今日は後ろからな」
「うるさいっ。集中しろよ」



(2019.4.29 twitter投稿)リメイク




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45.『月の綺麗な夜に』(名刺SSテキスト版)

風呂上がり、ベランダで月を見ていた。
サッシを開ける音がして、振り返るとあいつは足で「よっ」と閉めた。
右手にワイン、左手にはグラスが二個。
「へへ」と笑った顔が真ん丸お月さんに照らされて、ついつい「綺麗だな」なんて言っちまった。

「月、真ん丸だね」
「だな」
「綺麗」
「……そうだな」

綺麗なのは月じゃなくておまえだ。
そう言おうと思ったが、注がれたワインと一緒に飲みこんだ。
なんとなく、言葉にするのが勿体ない気がしたからだ。

好きだとか、愛してるだとか、段々とそんな言葉は使わなくなった。
ただ、目が合えばキスをして、続きがしたくなったらシャツの中に手を突っ込んで、どちらかがクイと腕を引けばそれでいい。

「日本酒の方がよかった?」
「どっちでも」
「美味い?」
「美味い。高ぇだろ」
「まあ、それなりに」
「日向さん……」

あいつが俺を呼び、俺は返事の代わりにキスをする。
片手をシャツに手を突っ込むと、もう片方にあるグラスが傾いた。

「あ、零れ……」
「ごめんな」
「また言った」
「何が、だ?」

あいつは「ふぅ」と一つ息を吐き、俺の腕を引いた。

「日向さんのさ、その『ごめんな』がやばいんだ」



(2019.4.29 twitter投稿)リメイク





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44.『餅プレイ』(名刺SSテキスト版)

「若島津、もうすぐ『令和』だな」
「そうだね」
「いろんなことがあったよな」
「苦しい時期もあったけど、俺は日向さんのそばに……」
「おまえ、臼になれ」
「臼ぅ?」

な、なぜ臼に。
ももも、もしや、もももも……痛ぅ。
あ、噛んじゃった。
てか、人の話を最後まで聞けよ!

「俺は杵になる。なって臼なおまえを突きまくる」

突くのは臼じゃなくて餅なんだけど。

「早くなれよ。臼ちゃんよぉ。新元号を餅で祝おうぜ」

やだな。この人なんとかならないかな。

「返事は?」
「は、はい」
「ちっげーよ! そこは臼語だろうが! 体育会系の風上にもおけないヤツめ」

体育会系って……。

「返事は?」
「う、ウス?」
「行くぜ、臼!」
「ウス」
「突くぜ、臼」
「ウスッ!」
「リズムをあわせてぺったんこ」
「ウ…ウ…ッ…ッ、ウス、ウス、ウスーーーッ!」

も、駄目。
杵さん、すごすぎ……。

「休むな、臼」
「ウス」
「寝るな、臼」
「ウス」
「早くしねぇと『平成』が終わっちまう」
「ウスッ!」



(2019.4.28 twitter投稿)
平成が終わるということで…




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43.『同居二週間後』(名刺SSテキスト版)

同居を始めてあいつが文句を言うようになった。
たいした事じゃないんだけど、風呂が温かったとか、ゴミはちゃんと分別しろとか、日常の中にある小言に寮にいた頃を思い出した。
洗濯物の干し方とか、掃除機のかけ方とか、料理一つ満足に出来ないくせして文句だけは一人前で、しかも、几帳面なくせしてどこかスッコーンと抜けてるんだよな。
料理も洗濯も65点でこなす俺にしてみれば、0点100点みたいなこいつの方が手がかかると思うのだが……。

まあ、離れている間は文句一つつけなかったしな。
こんな風に難癖つけられるというのも悪くない。

「これは燃えるゴミか?」

よれたゴムを見せると、あいつは耳まで赤くして、「無造作に捨てるなよ」とゴミ箱を奪取した。
だからと言って、ゴムはともかくティッシュまで新聞紙に包まなくてもいいんじゃねえか?
てか、なんでそんなにしげしげとゴムを眺めてんだ?

「あの、さ」
「なんだ?」
「ゴミが出るから使わなくてもいいんだけどさ」
「は?」

まさか、こういう誘われ方をするとは思わなかったな。

「昨夜あんだけやったのに足りなかったか?」
「あ、明日の分だよっ!」

はい~?
明日の分てなんですかぁ?
寝だめ、食いだめ、やりだめは出来ねぇんだよ。

「俺ってそんなにいいか?」
「う、自惚れるな」

自惚れるだろ、普通。
あんなに爪たてられたらさ。



(2019.4.27 twitter投稿)


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42.『終わりにしよう』(名刺SSテキスト版)

過ぎて行く季節と共に終わらせた。

高校二年の夏の終わり。
湿布の匂いがする部屋で、俺が伸ばしかけた手を引っ込めた距離とあいつが逃げようとした距離が同じだったから。

入り込んだ言葉の無い時間に、その後あいつがついた溜息に「終わりにしないか?」と俺は言った。

「いくら考えても同じなんだ。もう誤魔化せねぇ」

振り返ったあいつの瞳がゆらり、と揺れた。

「おまえもだろ?」
「日向さん、何を……」

おまえが踏み出せないなら、俺が距離を縮めるしかねぇよな。

「責任は俺がとる」

開け放した窓、夏の終わりの風が吹く静かな夜だった。

「日向さん、馬鹿だなぁ」

あいつがくれたキスと引き換えに俺は悩むのをやめた。




「もう、終わりにしよう」 #この台詞から妄想するなら http://shindanmaker.com/681121
(2019.4.26 twitter投稿)


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