50.『体温』(名刺SSテキスト版)
覚醒しきらない頭で一分ほど考えて、のそのそ起き上がってリビングへ行く。
いた。
猫みたいに丸くなって、あいつはソファにころんと横になっていた。
『ほーら、畳むとこんなにコンパクト』
何かのコピーのような言葉が浮かんだ。
「風邪ひくぞ」
「……んあ?」
すっとぼけた声をだしやがって。
だけど、スンと鼻を啜ったりするものだから、「ほら」とグイと引き寄せた。
「あったかい」
「何やってんだよ」
「夜中に目が覚めて、それから眠れなくて、雑誌捲ったり、お茶飲んだり、……そんなとこ」
暫くの間、俺の体温を吸い取ってから、満足したようにするりと離れていった。
「上着借りた。……ごめん。シワになった」
「いつの間に寝たんだろうなぁ」とボリボリ暢気に頭なんかかきやがって。
シワのよったコートに少しばかり嫉妬した。
「やっぱり、生身の方がいいや」
「あったりめーだ」
「なぁ、あいつ、なんて言ってだ?」
コートに話しかける俺は、かなりいかれている。
(2019.5.2 twitter投稿)リメイク