C翼二次創作/小次健love!  

40.『苦手な言葉』(名刺SSテキスト版)

通帳を差し出す手が少し震えていた。
だから、思い切り偉そうにした。
返済する時も偉そうにした。
だって、あいつも俺も男だから。
「ありがとう」とか、「ごめん」とか、言うのも言われるのも得意じゃない。

俺が「ごめん」と言うのはあいつの寝顔にだけで、「ありがとう」も上手く言えなくて、いくら言っても足りないから、余計口に出せなくなる。

ちっちぇ事でならいくらでも言えんのにな。

「ごめん。石鹸無くなった。持ってきてくれ」
「はい」
「ありがとな」

ほら、な。



(2019.4.25 twitter投稿)リメイク



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39.『春の風』(名刺SSテキスト版)

風の強い一日だった。
ドアを開ける度に吹き込む風に廊下はザラザラ白くなっていた。

「すごいね」

スリッパの裏で確かめているのが可笑しくて、俺もやってみた。
左足を軸にしてコンパスの動きをする。
半円まではきつかったが、割と綺麗な曲線を描いた。

クククと肩を震わせて、「何やってんだよ」と笑うこいつに触れてみたくて、一回転してよろけてみようか、なんて馬鹿げた事が頭に浮かんだ。

「どうせなら一回転してみてよ」
「え?」
「じょーだんだって。あー、喉がイガイガする。うがいしよ」

先を行く背中も、笑い声も、いつもと変わらなかった。

だよな。ありえねえって。

最近俺はきっかけばかりを探している。



(2019.4.24 twitter投稿)リメイク




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37.『遅刻だ』(名刺SSテキスト版)

やべえっ!二度寝したっ!

「おい、若島津、起きろっ!」
「んぁ?」

3秒で着替えて、10秒で顔を洗い、30秒で歯を磨いた。
パンを齧りながらダッシュする。
今週は「遅刻撲滅週間」
1秒でも遅れると門が閉まる。

「日向さん、早く、早く!」
「ま、待て。鼻から牛乳がっ、口からパンがっ」

「あ。パンくず」

あいつの指が口の横をかすって、それをペロリと舐められて、口からパンと一緒に心臓がっ!

「早くしろってばっ!」
「おおおおおおおうっ!」

ガシャーン!

「日向ぁ。若島津っ! お前らは朝練のない日はマトモに登校出来んのかっ!」

「すいませーん」「すいませーん」

「昨夜、ちょっと羽目外しすぎたな」
「あんたが調子にのるのが悪いんだろ?」

「なーにをコソコソ言ってるんだぁっ!」

「すみませーん」「すみませーん」

「あ。こっちにもパンくず」

あいつの指がまた掠った。
で、またペロリ。

「お前も牛乳ヒゲ」
「ウソッ」

でっけー掌が口元を覆って、形のいい鼻の上、真っ黒な目ん玉が真ん丸くなって、可愛いったらありゃしない。

「ウッソー」
「もう、びっくりするじゃないかぁ。日向さんたら、やだなぁ~。もう~」

「…………。は、早く教室入れ」

「ウィーッス」「はーい」



(2019.4.22 twitter投稿)再録





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36.『植木屋のおじさん』(名刺SSテキスト版)

チョキン、チョキン、チョキ、チョキ。

「若、こんな所にいらしたんですか? 危ないですから、部屋に入りましょう」
「やだよ。だって、葉っぱ切るの見たいもん」
「我儘言わないで。犬山が叱られてしまいます」
「ちぇーっ。つまんない」
「さ、行きましょう。……おや、紙飛行機ですか?」
「うん。でも、あんまり飛ばないの」
「どれ、犬山が作って差し上げます。一回飛ばしたらおしまいですよ」
「わかった」

ひゅう~、パスッ。

「飛ばないよ」
「おかしいですねぇ」

「坊ちゃん、私が作って差し上げましょうか?」
「いいの?」

植木屋のおじさんの作った紙飛行機はすごいんだ。
ぴゅーって飛ぶの。
ながーく飛ぶの。

「うわぁ、すごい!」
「でしょう? 倅が好きでねぇ。誰にも教えちゃダメですよ。さ、お部屋に戻って下さい。危ねえですからね」
「わかった。ありがとう、おじさん」



「日向さん、遊んでないで早く宿題終わらせなよ」
「うーん、やる気でねぇ」

日向さんはルーズリーフを一枚外した。

「いてっ。何、遊んでんのさ。ガキみたいな事して遊ぶなって……あ、これ、オリジナル?」
「おお。すっげー飛ぶだろ?」

「倅」
「は?」
「植木屋のおじさんの言ってたのって……」
「なんだよ、それ。ぜんっぜん分かんないんだけど」
「秘密。誰にも教えちゃいけないんだ。約束だから」



日向父、植木屋妄想
(2019.4.21 twitter投稿)リメイク







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34.『許さなくていいから』

「日向さん」

試すような速さであいつの指が俺に向かって伸びてきた。

「泥がついてる」

それが目尻の先でピタリと止まった。

「日向さん、そこ。左の頬」

泥を払うより先にあいつの手首を掴んだ。
黒い瞳が一瞬大きくなった。
グラリ、と地面が揺れた気がした。
触れた唇も、掴んだ肩も、ガチガチに硬かった。

「俺……」
「許さなくていいから、目を瞑れ」

上の睫毛が瞳を隠すと、あいつはふわりと力を抜いた。





33(twitterタグ #文字書きさんキスシーンを14文字で表現してください)を元に書きました。
(2019.4.19 twitter投稿)


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32.『春の歌』(名刺SSテキスト版)

「なんだよ。俺の顔になんかついてるか?」
「別に。……ただ、いい男だなぁと思ってさ」

彼は一瞬目を見開き、それから肩を震わせ「ククク」と笑った。

テーブルに映る影が、歌うように揺れる。

「春は柔らかいね」
「なにがだ?」
「いろんなものが」

また、彼が笑った。

「散歩でもするか」

影も揺れた。




(2019.4.18 twitter投稿)再録

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31.『気配』(名刺SSテキスト版)

頬というか、口元というか、
温かいような、擽ったいような……

気づかれずにする自信が持てず、わざとらしく寝返りをうった。

壁に写った影が明けきらない日の光を受けて揺れた。

「言ったら何か変わるかな」

背中で聞いた声も揺れた。

「俺もだ」
「え?」

「だから言う。たぶん、いい方に変わる」




(2019.4.17 twitter投稿)

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