80.『月の光』(名刺SSテキスト版)
横顔がぞっとするほど綺麗だった。
それと、ほんの少し寂しそうだった。
「あんた、狼みたい」
「なんだよ?それ」
「なんで虎なの?」
「知るかよ。いつの間にかそうなってたんだよ」
「寂しそう。絶滅したニホンオオカミの最後の一匹って感じ」
「お前なぁ、それじゃ可哀相すぎるだろう。俺にだって仲間はいるんだぜ」
「だよね」
言いながら、彼は俺の肩を抱いた。
「ずっと見てるね、月」
「ウサギが見えるかなぁと思ってさ」
「餅搗きしてた?」
「いや。俺を誘ってた。『狼さん、私を食べていいですよ』って」
「そんなわけないじゃん。食べられるのは嫌だろ?」
きらり、と青白い月を映した瞳が光る。
「やっぱり狼みたい」
「お前は言ってくれないのか?」
「何を?」
「『俺を食べてもいいですよ』って」
「どうしようかな。狼に食べられるのは嫌だけど……」
……また、キラリ。
「じゃあ、変身しないうちに部屋に入ろうぜ」
(2019.6.2twitter投稿)リメイク