14.『キッチン』(名刺SSテキスト版)
目が合うと「チャーハン」とか「パスタ」とか短く言う彼はいい。
「なーに、殿様みてぇにどん座ってんだよ」
そう言いながらクイと袖を捲る。
俺は蛇口から流れる水の音だとか、フライパンの上で油が跳ねる音を聞きながら部屋に漂う匂いを吸い込んでは味を想像する。
「サラダも食うか?」
「あると嬉しいな」
「なら、手伝え」
今日は「いやだ」と言ってみようか。
「コラ」と口には出さずにおたまを小さく振り上げる彼が好きだから。
小さければ小さいほどみつけた喜びは大きくて、「チャーハンの歌を歌ってよ」と俺は言った。
「ねぇよ。そんなもん」
彼の腰骨がゴンとぶつかってよろけるのが俺は好きだ。
(2019.4.3 Twitter投稿)リメイク