17.『約束事』(名刺SSテキスト版)
最低限プライバシーは守る事。
家事の分担。
風呂の使い方。
同居を始めるにあたり、あれこれルールを決めた。
「シェアするんだからな。扶養家族じゃないんだから」
「家賃はいいけど、生活費の口座まではいいだろ?」
「駄目」
日向さん、こういう事は最初が肝心なんだよ。
放っておくと、俺に財布を出させなくなる。
どちらの名義で口座を開設するかで揉めて、結局、各々作って同じ額を預け入れした。
財布にカードが一枚増えただけだけで何となく嬉しかった。
生活するって感じがした。
「他にはないのか? 後から追加されるのは嫌だ」
「ないかな?日向さんは何か希望ないの?」
「うーん、そうだなぁ……。ゴミ、かな?」
「ゴミ?」
「ゴミと一緒に送り出すのはやめてくれ」
「そんな事しないって」
「いってらっしゃ~い。撮影頑張ってー」
「かったりぃなぁ~」
「文句言わない」
「へーい。じゃ、行って来るな。マイハニー♪」
何がハニーだよ。
だけど、出掛けのキスは蜂蜜に似ているかもしれないな。
あ、そうだ。蜂蜜切れてたんだ。
「帰りに蜂蜜買ってきてくれない?」
「了解」
「それと、ゴミよろしく」
「…………」
「何?」
「何でもねえ……。じゃな」
いいなぁ。
生活感ありありの後ろ姿。
あの背中を俺は守っているんだな。
(2019.4.5 Twitter投稿)リメイク