23.『夜桜を見に』(名刺SSテキスト版)
そろそろ見頃じゃないかと、近くの公園に夜桜を見に行った。
少し離れた場所に桜の名所はあるし、人影はまばらで屋台があるわけでもなければライトアップされているわけでもない。
シーソーとブランコ、小さな砂場の横に水飲み場。
それを見守るようにポツンとベンチがあるだけだ。
「桜、少ねぇな」
「そうだね」
「やっぱり、あっちの……」
ふわり、と頬が温かくなった。
「バカ。こんなところで」
俺は笑いながら言ったのに、
「ずっと大切にするから」
真顔で言うあいつに、
胸のあたりが苦しくなって、
月も桜もブランコも揺れた気がして、
「帰るぞ」
夜露に湿った地面を蹴ることしかできなかった。
(2019.4.9 twitter投稿)リメイク