92.『だったら、』(名刺SSテキスト版)
肌に纏わりつく湿った風に、ついさっきまでここにあった彼の匂いを聞き、彼の体温を感じる。
「半日しかいられないくせに来んなよ、バーカ」
「悪かったな」
……え?
振り返ると、ここにはいないはずの男が肩で息をしていた。
「日向さん、…なんで? 忘れもの?」
「まあな」
彼は「誰にも触らせんなよ」と、俺の髪を一筋掬った。
「それだけだ」
「…………」
「んだよ」
「それだけ言いに戻って来たの? 帰らなくて平気なの?」
「平気じゃねえ」
「だったら……」
「平気じゃねえけど平気だろ。……たぶん、な」
なんで、この男はこういう事を平気でするかなぁ。
だけど、俺はバカだから……
「だったら」
「だったら?」
「だったら早く触って、よ」
(№38の再投稿 2019.6.19 twitter投稿)リメイク