39.『春の風』(名刺SSテキスト版)
ドアを開ける度に吹き込む風に廊下はザラザラ白くなっていた。
「すごいね」
スリッパの裏で確かめているのが可笑しくて、俺もやってみた。
左足を軸にしてコンパスの動きをする。
半円まではきつかったが、割と綺麗な曲線を描いた。
クククと肩を震わせて、「何やってんだよ」と笑うこいつに触れてみたくて、一回転してよろけてみようか、なんて馬鹿げた事が頭に浮かんだ。
「どうせなら一回転してみてよ」
「え?」
「じょーだんだって。あー、喉がイガイガする。うがいしよ」
先を行く背中も、笑い声も、いつもと変わらなかった。
だよな。ありえねえって。
最近俺はきっかけばかりを探している。
(2019.4.24 twitter投稿)リメイク