55.『氷の欠片』(名刺SSテキスト版)
一人だったのに泣かなかった。
喉に詰まった氷のカケラは、溶ける事なくずっとそこにいた。
泣いちまったら笑えるだろうか。
声をあげて泣いたら口を開けて笑えるのか。
会いてえなぁ。
もう半年会ってない。
半年あいつに触れてない。
やっぱしんどいわ。
欲張りだから、声だけなんて無理。
半年で自分が変わった様に、あいつもちびっとウェイトが増えたとか、今だに背が伸びてるだとか、この目で確かめて、この腕に抱いて感じたい。
行っちまうか?
二日しかねえけど。
思っていたら電話が鳴った。
「日向さん、今から行く」
バタバタ部屋中掃除して、念入りに髭を剃って、酒と食い物を調達して、汗をかいたから風呂に入った。
半年ぶりに抱いたあいつは、恥ずかしそうに「久しぶりだから少し痛い」と言った。
だから、俺も「久しぶりだから早えし」と言った。
「久しぶりのくせにキス上手くなってんじゃん」
「久しぶりだからサービスしてんだよ」
いつの間にか氷は溶けて、溶けた氷は涙になって、俺が笑うとあいつも笑った。
(2019.5.5 twitter投稿)リメイク