73.『恋煩い』(名刺SSテキスト版)
ベッドの上の段を確保して正解だった。
「起きろ、若島津。遅刻するぞ」
嘘つきな俺は、彼が起きたのも梯子に足を引っ掛けてくるのも知っているけれど、
「今、起きる」と横を向き、薄目を開けて寝ぼけた返事をする。
昨日も一昨日も一週間前も、毎日同じことを繰り返す。
あんた、やっぱり格好いい。
目の前にある顔ににやけそうになるのをこらえて、布団をはぐられ、腕を引かれるのを待った。
「起きろ」
「う……ん」
「ったく、手がかかる」
手がかかるんじゃなくて、手をかけてほしいの。
それくらいしたっていいだろ?
言わずに我慢してんだからさ。
「若島津、起きろって」
あ、届きそう。
キス、したいな。
したら、引くよな。
寝ぼけてたって事になんないかな。
やってみようかなぁ。
……え! なにっ!
「驚いたか! 目、覚めただろ?」
だから、そういうことすんなって。
俺がしたいキスは、ほっぺにじゃなくて唇になの。
ぺろんと舐められたいんじゃなくて、ぶちゅーってヤツなんだよ。
「どーせならもっと色気のあるのがいい」
「俺にそんな事を求められてもなぁ。いくらお前の頼みでもそれは無理だって。……先、飯行くぞ」
ぶん投げた枕が後頭部にクリーンヒットした。
「いってえな! 何すんだよっ」
ああ、怒った顔がたまんない。
俺、重症だな。
(2019.5.27twitter投稿)リメイク