75.『からあげ』(名刺SSテキスト版)
そのうえ態度もでかすぎる。
夕飯時、寮の食堂。
向かい側の男はいつもと変わらぬ豪快な食べっぷり。
「貸せ」
いきなり俺の箸を取り上げて、ぶすっとから揚げに突き刺した。
「食え」
それから左手に箸を握らせる。
なんだかいつもと味が違う。
たぶん気のせいだろうけど。
「若島津、怪我か?」
二コ上の先輩の声が頭の上で響いた。
「え? いえ、違います」
日向さんは先輩をギロリと睨み付け、
「から揚げは突き刺して食うのがウマいんです」
ぶすっと自分の箸も突き刺した。
「何だよ、それ」
先輩はクスッと笑った。
「若島津、怪我したんならちゃんと手当しないと。見せてごらん?」
俺に差し出された先輩の腕を遮り、ずいと鼻先にから揚げを突き付ける。
「なんだよ、日向」
「食って下さい」
別に隠すような事でもないけれど、あんまり言いたくなかった。
部屋に入るなり怒鳴られた。
「無理しやがって、バカ野郎。魚だったら刺せねえだろうが」
ポンと湿布の箱を投げられる。
「日向さん、明日はカレーだから大丈夫」
「明後日は?」
「献立見ないとわからないよ」
「明後日は煮魚だ。明日中に治せ」
あんた、すごく優しいね。
(2019.5.29twitter投稿)リメイク