101.『七夕』(名刺SSテキスト版)
寮の玄関脇に笹竹が置かれた。
小さなテ1プルの上に短冊とペン。
書いたり書かなかったりその年によってマチマチだったが、たまたま若島津が忘れ物に気づいて部屋に戻り、ぼこっと空いた
時間に短冊に手を伸ばした。
「ごめん、ごめん」
言いながら靴を履くあいつに見つからないように短冊をポケットに入れた。
「日向さんは願い事書いた?」
「書かねーよ。お前は?」
「同じ。俺も書いてない。だって、見られたらイヤだし」
「だよな」
でもさ、とあいつが言った。
でもよ、と俺も言った。
交換した短冊には互いの名前しかなかった。
何をどうしたいかも書いていなかった。
「思いっかなくっさ。いるだけでいいって言うか……」
だよな。俺もそう思う。
(2019.7.7 twitter投稿)
(2019.7.7 twitter投稿)