131.『ティーカップ』(名刺SSテキスト版)
空の色も風の匂いも秋に変わった。
久しぶりに会った若島津は少し髪が伸びていて、それから、すこし痩せたように見えた。
「痩せた?」
「痩せてないよ」
「そう?」
「今日、体重測ったからわかる。ウェイトは落ちていない」
「じゃあ、気のせいだね」
「そうだよ」
言いながら、若島津はティーカップの中に角砂糖を一つ落とした。
そのあとくるくると銀のスプーンで渦を作りながら、何を思ったか、小さく肩の位置を上げ数回揺らした。
「反町、俺が寂しがってるとか思ったの?」
「別にそういうんじゃないけど……。俺が寂しいのかも」
「あの人、キャラ濃いからねぇ」
「だよね」
「だけど…」
「なに?」
「電話もくれる。メールもくれる。だから、幸せだよ」
そこにどんな言葉があるのか俺にはわからないけれど、傾けたカップに隠すように「こんなこと、反町にしか言えない」と言ってくれたから……。
若島津より先に伝票に手を伸ばし、若島津のカップが空になるのを待って俺は椅子を引いた。
「なんとなく、だよ。なんとなく」
(2019.9.10 twitter投稿)
小次健さんは『幸せだよ』という台詞を使って、絵または漫画、小説を描いて(書いて)ください。
#台詞で創作 https://shindanmaker.com/524618