6.『あめとあめ』(名刺SSテキスト版)
なんで、見ればわかることをみんな言うんだろう
だけど、こいつの口からでる「あめ」はいいと思う。
静かで、しとっとしていて、なんとなく柔らかいっつーか、そんな感じ。
今日は喉の調子が悪いみたいだ。
「日向さんも飴舐める?」
今度の「あめ」はまるくって、いかにも飴玉らしかった。
「なにニヤニヤしてんのだ」
「別に。雨と飴だし」
「変なの」とあいつは笑って、それから「雨は嫌いじゃないし、飴は普通」と言って、カラコロ口の中の飴玉を転がした。
「『嫌いじゃない』と『普通』はどっちがランクが上だ?」
「さあ……」
「俺、は?」
「日向さん? うーん。嫌いじゃないし、普通に好き」
なんだよ、それ。
たまには嬉しいことを言ってみろ。
「飴くれ」
腕を引き寄せ、溶けかけた飴を横取りした。
「あ、バカ。とるなよ。返せってば」
「返していいのか?」
耳まで真っ赤になって「返さなくていい」と言ったあいつの口に
プッと飴玉を放り込んだ。
いつの間にか、雨は上がっていた。
(2019.3.27 Twitter投稿)リメイク