通帳を差し出す手が少し震えていた。
だから、思い切り偉そうにした。
返済する時も偉そうにした。
だって、あいつも俺も男だから。
「ありがとう」とか、「ごめん」とか、言うのも言われるのも得意じゃない。
俺が「ごめん」と言うのはあいつの寝顔にだけで、「ありがとう」も上手く言えなくて、いくら言っても足りないから、余計口に出せなくなる。
ちっちぇ事でならいくらでも言えんのにな。
「ごめん。石鹸無くなった。持ってきてくれ」
「はい」
「ありがとな」
ほら、な。
(2019.4.25 twitter投稿)リメイク
[1回]
風の強い一日だった。
ドアを開ける度に吹き込む風に廊下はザラザラ白くなっていた。
「すごいね」
スリッパの裏で確かめているのが可笑しくて、俺もやってみた。
左足を軸にしてコンパスの動きをする。
半円まではきつかったが、割と綺麗な曲線を描いた。
クククと肩を震わせて、「何やってんだよ」と笑うこいつに触れてみたくて、一回転してよろけてみようか、なんて馬鹿げた事が頭に浮かんだ。
「どうせなら一回転してみてよ」
「え?」
「じょーだんだって。あー、喉がイガイガする。うがいしよ」
先を行く背中も、笑い声も、いつもと変わらなかった。
だよな。ありえねえって。
最近俺はきっかけばかりを探している。
(2019.4.24 twitter投稿)リメイク
[3回]
(欠番)
誤りがあったため、修正し再投稿しました(№92)
重複してしまったので№を振り直すことも考えましたが、数が多いため欠番とさせて頂きます。
[0回]
やべえっ!二度寝したっ!
「おい、若島津、起きろっ!」
「んぁ?」
3秒で着替えて、10秒で顔を洗い、30秒で歯を磨いた。
パンを齧りながらダッシュする。
今週は「遅刻撲滅週間」
1秒でも遅れると門が閉まる。
「日向さん、早く、早く!」
「ま、待て。鼻から牛乳がっ、口からパンがっ」
「あ。パンくず」
あいつの指が口の横をかすって、それをペロリと舐められて、口からパンと一緒に心臓がっ!
「早くしろってばっ!」
「おおおおおおおうっ!」
ガシャーン!
「日向ぁ。若島津っ! お前らは朝練のない日はマトモに登校出来んのかっ!」
「すいませーん」「すいませーん」
「昨夜、ちょっと羽目外しすぎたな」
「あんたが調子にのるのが悪いんだろ?」
「なーにをコソコソ言ってるんだぁっ!」
「すみませーん」「すみませーん」
「あ。こっちにもパンくず」
あいつの指がまた掠った。
で、またペロリ。
「お前も牛乳ヒゲ」
「ウソッ」
でっけー掌が口元を覆って、形のいい鼻の上、真っ黒な目ん玉が真ん丸くなって、可愛いったらありゃしない。
「ウッソー」
「もう、びっくりするじゃないかぁ。日向さんたら、やだなぁ~。もう~」
「…………。は、早く教室入れ」
「ウィーッス」「はーい」
(2019.4.22 twitter投稿)再録
[4回]
チョキン、チョキン、チョキ、チョキ。
「若、こんな所にいらしたんですか? 危ないですから、部屋に入りましょう」
「やだよ。だって、葉っぱ切るの見たいもん」
「我儘言わないで。犬山が叱られてしまいます」
「ちぇーっ。つまんない」
「さ、行きましょう。……おや、紙飛行機ですか?」
「うん。でも、あんまり飛ばないの」
「どれ、犬山が作って差し上げます。一回飛ばしたらおしまいですよ」
「わかった」
ひゅう~、パスッ。
「飛ばないよ」
「おかしいですねぇ」
「坊ちゃん、私が作って差し上げましょうか?」
「いいの?」
植木屋のおじさんの作った紙飛行機はすごいんだ。
ぴゅーって飛ぶの。
ながーく飛ぶの。
「うわぁ、すごい!」
「でしょう? 倅が好きでねぇ。誰にも教えちゃダメですよ。さ、お部屋に戻って下さい。危ねえですからね」
「わかった。ありがとう、おじさん」
「日向さん、遊んでないで早く宿題終わらせなよ」
「うーん、やる気でねぇ」
日向さんはルーズリーフを一枚外した。
「いてっ。何、遊んでんのさ。ガキみたいな事して遊ぶなって……あ、これ、オリジナル?」
「おお。すっげー飛ぶだろ?」
「倅」
「は?」
「植木屋のおじさんの言ってたのって……」
「なんだよ、それ。ぜんっぜん分かんないんだけど」
「秘密。誰にも教えちゃいけないんだ。約束だから」
日向父、植木屋妄想
(2019.4.21 twitter投稿)リメイク
[2回]
初めてじゃねえょな? 痛ぇ……。
twitterタグ #文字書きさんキスシーンを14文字で表現してください。
(2019.4.19 twitter投稿)
[0回]
「日向さん」
試すような速さであいつの指が俺に向かって伸びてきた。
「泥がついてる」
それが目尻の先でピタリと止まった。
「日向さん、そこ。左の頬」
泥を払うより先にあいつの手首を掴んだ。
黒い瞳が一瞬大きくなった。
グラリ、と地面が揺れた気がした。
触れた唇も、掴んだ肩も、ガチガチに硬かった。
「俺……」
「許さなくていいから、目を瞑れ」
上の睫毛が瞳を隠すと、あいつはふわりと力を抜いた。
33(twitterタグ #文字書きさんキスシーンを14文字で表現してください)を元に書きました。
(2019.4.19 twitter投稿)
[1回]
許さなくていいから 目を瞑れ
twitterタグ #文字書きさんキスシーンを14文字で表現してください。
(2019.4.19 twitter投稿)
[0回]
「なんだよ。俺の顔になんかついてるか?」
「別に。……ただ、いい男だなぁと思ってさ」
彼は一瞬目を見開き、それから肩を震わせ「ククク」と笑った。
テーブルに映る影が、歌うように揺れる。
「春は柔らかいね」
「なにがだ?」
「いろんなものが」
また、彼が笑った。
「散歩でもするか」
影も揺れた。
(2019.4.18 twitter投稿)再録
[1回]
頬というか、口元というか、
温かいような、擽ったいような……
気づかれずにする自信が持てず、わざとらしく寝返りをうった。
壁に写った影が明けきらない日の光を受けて揺れた。
「言ったら何か変わるかな」
背中で聞いた声も揺れた。
「俺もだ」
「え?」
「だから言う。たぶん、いい方に変わる」
(2019.4.17 twitter投稿)
[1回]