いつもは耳で拾うものを目がとらえる。
「寒いな」
白い息に手をのばしかけた冬の朝。
(2019.3.31 Twitter投稿)再録
[2回]
「はい、どーぞ。アタリメだけじゃ嫌でしょ?」
「ワンカップかよ……」
「おやっさん、冷やでいいですかい?」
「いいっすよ」
「うーん」
「なんだよ」
「いいなぁ」
「なにが?」
「その年でワンカップが似合うなんて」
「おまえ、喧嘩売ってんのか? チッ。これじゃ足りねぇっつーの。一升瓶ごと持ってこいよ」
「はいはい。とっておきの吟醸酒じゃ。呑め、コジロー」
「なんだよ、それ」
「吉良監督の真似。へへ」
「おまえは何をやっても可愛いなぁ」
「日向さんもやって」
「おまえは牙の抜けた虎じゃ」
「似てない。……てか、よく自分でそんなこと言えるね。悲しくならないの?」
「少し悲しくなった。慰めてくれ」
(2019.3.30 Twitter投稿)リメイク
[3回]
姉からメールが来た。
『迎えに来て』
はあ?
「何処にいるの?」
『新幹線の中』
なんだよ、これ。
「何処に向かっている」
『なにその言い方。怒るわよ』
俺としかことが無駄なメールを打ってしまった。
「すみませんでした。何処に向かっているんですか?」
『駅』
駅って何駅! 何時に着くの。
あの人の上を行く女だな。
「何駅ですか?」
『名古屋。鞄が重いの』
だーかーらー、
「駅の何処に何時に行けばいいんですか?」
『決めて。あと30分くらいで着くはず』
馬鹿だな、俺。
初めから指定すればよかった。
ちょうど打ち終わったところでメール着信の音が鳴った。
『おれ名古屋』
あんた、日本語おかしいよ……。
てか、なんで名古屋ぁ?
あ! やばい!
ああ、よかった。こっちを先に見つけて。
「日向さんっ」
「よお、珍しいな、迎えに来るなんて。ははーん、たまにはホテルで、なんて思ってんな。パンツ履いてっかぁ? コートの下のキミ、元気っつ……お、お姉さんっ!」
(2019.3.29 Twitter投稿)再録
[2回]
何がどうという理由もなく、無性に抵抗したくなることがある。
疼く体に逆らって、ギリギリと追い込みたくなる。
狂いたいのか、狂っているのか、それとも、狂わせたいのか……。
「大人しく抱かれてりゃいいんだよ」
「今日は気分じゃないって言ってるだろ」
「俺がやりてぇんだ」
「勝手なことを言うな」
怒鳴り合い、肉をぶつけ合い、そしてシャツのボタンが弾け飛ぶ。
噛みつくような口づけて俺の言葉は塞がれる。
這いずり回る唇。
腰を抱く腕の強さ。
鼻を掠める体臭。
迸る汗、汗、汗。
ズブリと体内を犯されるその瞬間を待つこの身が恨めしいとさえ思う。
だから、もっと欲しがれよ。
もっと、俺に溺れろよ。
何がどうという理由もなく、時にめちゃくちゃに抱かれたくなる。
「おまえが抵抗するからだ」
その先にある彼が残した足跡を彼自身が辿る優しさを期待して。
(2019.3.28 Twitter投稿)再録
[3回]
「雨だよ」
なんで、見ればわかることをみんな言うんだろう
だけど、こいつの口からでる「あめ」はいいと思う。
静かで、しとっとしていて、なんとなく柔らかいっつーか、そんな感じ。
今日は喉の調子が悪いみたいだ。
「日向さんも飴舐める?」
今度の「あめ」はまるくって、いかにも飴玉らしかった。
「なにニヤニヤしてんのだ」
「別に。雨と飴だし」
「変なの」とあいつは笑って、それから「雨は嫌いじゃないし、飴は普通」と言って、カラコロ口の中の飴玉を転がした。
「『嫌いじゃない』と『普通』はどっちがランクが上だ?」
「さあ……」
「俺、は?」
「日向さん? うーん。嫌いじゃないし、普通に好き」
なんだよ、それ。
たまには嬉しいことを言ってみろ。
「飴くれ」
腕を引き寄せ、溶けかけた飴を横取りした。
「あ、バカ。とるなよ。返せってば」
「返していいのか?」
耳まで真っ赤になって「返さなくていい」と言ったあいつの口に
プッと飴玉を放り込んだ。
いつの間にか、雨は上がっていた。
(2019.3.27 Twitter投稿)リメイク
[1回]
受話器の向こうであいつが何を見ているとか、
今日はどんな色の空を見て過ごしたのか、とか、
声や息遣いから探り、そこに小さな嘘が入り込むこともあれば、
わかっていながらそのままにすることもあり、
辛かったとは言いたくはないが、ただ、いまが幸せすぎるだけで
失くしたくねぇな、と、そんなことを思いながら寝顔を眺めているうちに……
また、寝そびれた。
「すげえよな。同じ時間に朝が来て、同じ時間に日が暮れるんだぜ。朝でもねぇのに『おはよう』って言わなくてもいいんだぞ」
頬をつつくと睫毛が揺れた。
「睫毛、なげえし」
鼻を撮むと眉の間に皺が寄った。
「苦しかったら口開けろー」
小さく開いた唇に近づけた指は、
「吸ってもいいぞ」
鬱陶しそうに払われたけど、
「かわいくねえな」
その後、長い腕が巻き付いてきて、
脚も巻き付いてきて、
「痛ぇよ……」
俺の言葉にあいつが笑った。
「やべえ、すっげ可愛い」
つか、どーしてくれんだよ、これ。
……俺、惚れすぎだろ。
(2019.3.26 Twitter投稿)リメイク
[3回]
「美味いね」
ただ、それだけで胸が震えた。
そう言って、あいつの口に入っていったものが、昨日も一昨日も食べたもので、
わざわざ白い飯を「美味い」と言うことに、余程腹が減っていたからか、とか、昨日と炊き方が違っていたのか、とか、
理由を探してみたけれど、きっちり計った米ときっちり計った水を炊飯器が勝手に炊いた米に理由なんか見つけられなかった。
だから、なんで自分が泣きたくなっているのかが分からない。
自分がどういう時に泣きたくなるのかも。
嬉しいとか、悲しいとか、悔しいとか、そういう時じゃなくて
こんな風に、当たり前の日常に……
ただ、その身を引き寄せて鼓動を聞きたい衝動にかられる。
「食べないの?」
あいつの箸の上の小さな飯の塊がポトリと落ちた。
ただ、それだけで。
(2019.3.25 Twitter投稿)リメイク
[2回]
待たなければいいのだ、と思いながら、待って落ち着かなくなる。
気にしなければいいのだ、と思いながら、気にして落ち込む。
笑えばいいんだよな、と想いながら、笑えない自分に気づき溜息をつく。
変わることが怖いくせに変わることを期待する。
変わってしまった自分に泣きたくなる。
「日向さん、ごめんね」
「なにが、だ?」
「それでもずっとあんたとサッカーがしたいんだ」
「なにわけわかんねぇ事を言ってんだ? 俺とおんなじじゃねぇか」
馬鹿。鈍感。……だけど、好き。すっげぇ好き。
(2019.3.25 Twitter投稿)リメイク
[4回]
「ここで抱いてもいいか?」
俺の言葉にあいつは「え」と短く声をあげて、ゼンマイ仕掛けのおもちゃのようにゆっくり振り返った。
「ここでって……」
射し込む光が柔らかかった。
ざく切りにした野菜が鍋の中で踊る。
「たまには俺が作るよ」そう言って、危なっかしい手つきで包丁を使い、料理本に書かれた短い文を、いちいち復唱しながら鍋に野菜を放り込んで、
みていたら、
「抱きたくなったんだよな」
「さっき、腹が減ったって……」
「ほら、こんなになってるぞ」
「……」
腰を押し付けると、あいつは呆れたような諦めたような声で「きっかけが全然わからない」とコンロの火を止めた。
「俺もわかんねぇ」
唇から、指先から、髪の一本一本から感じる。
「おまえ、俺に惚れすぎだろ」
「なに言ってんだよ」
愛されてる自分を。
(2019.3.24 Twitter投稿)リメイク
[3回]
どてっ腹に受けた衝撃は、予想をはるかに超えていた。
駄目かもしれない。
思った瞬間、彼が引き戻してくれた。
「間に合った」
聞き取れないくらい小さな声で彼が言った。
俺しかいないと思った。
俺、が彼の背中を守る。
twitterアカウント取得日にご挨拶代わりに書きました。
(2019.3.24 Twitter投稿)
[4回]