「おまえが好きだ」と彼が言い、「俺も」と答えた。
「キスしていいか?」
彼の指が伸びてきて、「俺も」と目を閉じた。
「失うのが怖かった」
それにも「俺も」と言うと、彼は困ったような呆れたような息を小さく吐いた。
「『俺も』ばっかだな」
「だって……」
サーと梅雨の晴れ間の風が俺達を追い越していった。
「初めて会った日から日向さんしか見ていないから」
抱きしめると、微かに昨夜の残りの雨の匂いがした。
お題:抱きしめる http://shindanmaker.com/570790
(2019.6.14 twitter投稿)
[1回]
『愛してる。愛してる。愛してる。愛してる』
タクシーの中で受信したメール。
「お客さん、なんかいい事あったんですかぁ?」
「え? いえ……」」
『愛してる。愛してる。愛してる……』
もう、何考えてんだよ。
『わかった』
『待ってろ。あと百回くらい送信してやる』
嫌がらせかよ……。
『いらない』
『受けとれ』
『いりません』
「お客さん、着きましたよ」
「え? あ、はい……あ、お釣りはいりません」
『いりませんじゃねぇだろ』
何処かで見ている様な、そんな気がして可笑しくなった。
「ありがとうございました」
『ありがとう』のメールを一通送信した。
(2019.6.13 twitter投稿)再録
[2回]
こいつは季節の移ろいに敏感だから、俺もそれに気づく事が出来る。
こいつがふと立ち止まって見上げた先にあるものを俺も一緒に見上げる。
そこには空や雲や風があるだけだけど、冬だな、と俺は思う。
一瞬、時が止まる。
止まってゆっくり流れ始める。
こいつは香りを楽しみながらお茶を淹れるから、俺も香りを感じながらカップを傾ける。
立ち上る湯気に気持ちが解ける。
解けてほっこり温まる。
こいつは俺より感じやすいから、俺もこいつの肌を通して感じる。
こいつは静かな場所を好むから、俺も耳を澄ます。
一人だったら気づけなかった事がたくさんある。
やば。すっげえ気持ちいい。
焦らしてるんじゃないんだぜ。
もっと感じていたいんだ。
声も、匂いも、体温も、
それから、泳ぐように足がシーツに絡まる音だとか……。
(2019.6.10 twitter投稿)再録
[2回]
「キー寄越せ」
「え?」
「俺が運転する」
「あ、そこ右折」
「りょーかい」
快晴だった。
どこを探しても雲なんかなかった。
「あ」
んだよ! 間違ったんだよっ。
晴れた日にワイパー動かしちゃいけねえのかよっ!
「そんなに笑うな」
「ごめん、ごめん」
いつまで笑ってんだ。コノヤロー!
「間違ったんだっ」
「だよね。……あ、そこ左。右にあるのがウィンカーだよ」
「わーってる」
ぽんぽんと腿を叩かれた。
「あんた、帰って来たんだね」
あ、そうか。それでか。
ちっぽけな事が嬉しいと言う。
そんなこいつが俺は好きだ。」
(2019.6.10 twitter投稿)再録
[2回]
「島野ぉ、なんか甘いお菓子ない?」
「ポテチしかないな。小池は?」
「明太子味のうまい棒なら……」
「明太子味かよ。甘いのがいいの」
「反町はわがままだな。若島津に訊いてみるか。スィーツ男子だし」
「そだねー」「そだねー」
「悪いな。酢昆布しかな」
「どこがスィーツ男子だよっ」「どこがスィーツ男子だよっ」「どこがだよっ」
「日向さんに訊いてみようか?」
「そだねー」「そだねー」「そだねー」
「甘いもんか? 北詰監督の引き出しにいつも饅頭が入ってるぞ」
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
「そこだよな」
「そうそう」
「あんた、まさかいつも……」
「ちっげーよ。まぁいい。俺にまかせろ!」
「日向、なんか用か?」
「饅頭を分けて下さいっ。弟達に食わせてやりたいんです……くっ」
「に、にいちゃん」「にいちゃん」「にーちゃ……」「にぃ……」 ←嗚咽
とーほーmen'sフェス参加
(2019.6.9 twitter投稿)
[1回]
「タケシ、ゆっくり食え」
「はい」
「なんだ。反町は目玉焼きに塩か? ほらよ」
「ありがと」
「若島津、手が痛いならフォーク使え」
「わかった。そうする」
「あーいい。俺が持って来てやる。……あ、小池、米粒ついてるぞ」
「え? どこ?」
「ほっぺ。……あ、島野、パセリも食えよ」
「パセリ苦手」
「好き嫌いすんな。……あー、小池、米粒はそこじゃねぇ……若島津のフォークが先だ。ちょっと待ってろ」
「にーちゃん」「にーちゃん」「にーちゃん」「にーちゃん」「にーちゃん」 ←大合唱
とーほーmen'sフェス 参加作品
(2019.6.9 twitter投稿)
[3回]
声にならない声をあげ、彼がその時を迎える。
前髪が胸を擽る。
隠すように息を整える。
その後、必ず見せてくれるのだ。
照れたような笑顔を。
俺の好きな声と共に。
「水、飲むか?」
お題:漢字テーマ「絶頂」
(2019.6.9 twitter投稿)
[2回]
昨夜の残りの雨の匂いを嗅ぎながら、校舎裏でキスをした。
朝っぱらから何やってんだろ……。
そう思いながら、彼の唇を離せなかった。
ふいに入り込んだ足音に彼が動きを止めるまで。
「続きは後で」
彼が駆けて行く。
小さくなる背中に俺は言う。
「バカ。後っていつだよ」
昼休み、またここに来てみようか。
(2019.6.7 twitter投稿)リメイク
[2回]
「日向さん、今日は燃えるゴミの日~」
だるだるな声に起こされた。
「また俺かよ」
「俺だっけ~?」
ったく、しゃあねえなぁ。
ゴミ袋をズリズリ引きずって家中のゴミ集め。
キッチン、リビング、洗面所……。
で、ぐるりと一周して最後に寝室。
どんだけやったんだか……。
「サヨーナラ~」
「何が?」
「いや、別に……」
何にもしようとしないくせに文句だけはいっちょ前。
「プラゴミ混ぜないでよ~」
ったく。寝汚ねえヤツだな。
「おめえもゴミに出しちまうぞ」
「袋に入りませーん」
確かに入らん。
俺も入らんが。
でけえヤツだよなぁ。
でけえけど、俺の腕にすっぽり収まるんだよな。
(2019.6.5 twitter投稿)リメイク
[3回]
あいつの手首から肘の裏に向かうライン、三分の二あたり。
薄っすらついたキスマーク。
捲った長袖のシャツ、
一応隠れてはいるが、机に肘をつくとチラッと顔を出すくらいの位置にそれはある。
誰にも見せたくないが、誰かに言いたくなる。
ぜってぇ言わねぇけどな。
―――見ろよ。あれ、俺がつけたんだぜ。
(2019.6.4twitter投稿)リメイク
[2回]