「日向さん……」
革靴に入りかけたあいつの右足が元いた場所に戻った。
「なんだ? 忘れ物か?
いいかけた「なにを?」は、柔らかく塞がれた。
「俺からしたい日もあるんだよ」
頭の隅で時を数える。
そうだなぁ……。
舌を追いかけるくらいの時間はありそうだ。
「毎日でもいいぞ。大歓迎だ」
(2019.5.23twitter投稿)
[2回]
「甘い?」
「甘い」
赤くて形のいい苺を見つける度に、若島津は「はい」と俺に差し出した。
だから、俺もとびきり美味そうな苺を探す。
この中で一番旨い苺がこいつの口に入るように。
「食ってみな」
「甘い! これ、すごく美味しい」
特別でも何でもない、ちっぽけな一言が嬉しかった。
側にいるのが当たり前だと言われているみたいで、腰を屈めて俺の苺を選ぶあいつが愛しくて、俺もあいつの苺を選ぶ。
「日向さん」
「ん?」
「これ、食べてみて。自信ある」
渡された苺は最高に美味かった。
「うめえな」
「だろ? ……あ、これも良さそう」
若島津は長い指で葉を避けた。
ちょこんと顔を出した苺は大きくも特別形がいいわけでもなかったけれど、とても綺麗な色をしていた。
「葉っぱ、避けてるだけなのにな」
「何?」
だって、俺の為にしてくれただろ?
葉っぱなんか避けなくたって、そこにごろごろあんのにさ。
(2019.5.23twitter投稿)リメイク
[3回]
「いたたたた。やっぱり狭いな」
「だから言ったのに。狭いんだから入って来んなよ」
「いいじゃんよぉ。背中流してやっからさ」
「いいって。自分でやれる」
「ケチ」
「狭くて暑苦しんんだけど……。いたっ! もう、急に脚伸ばすなよ」
「風呂に入ってんのに身体がカチンコチンになるのは嫌だ」
「だから、別々に」
「おまえ、引っ越せ。もっとでかい風呂のあるところにしろ」
「これでもかなり広い方なんだけど。……い、痛いってば。じっとしていられないの?」
「どうしてでかい男が二人で入ることを想定して風呂を作らないかなぁ」
(2019.5.22twitter投稿)リメイク
[2回]
雨が好きです。
雨を見るのが好き。
傘越しに見る彼が好き。
雨が好きです。
雨が降った後の匂いが好き。
雨上がり、二人並んで歩くのが好き。
ほら、
水溜まりに写る俺は、とても幸せそう。
「ったく。お前はなんでわざわざ靴を汚すかなぁ」
雨が好きです。
雨で汚れた靴を二人で洗うのが好き―――。
だって、特別な事じゃないから。
(2019.5.21twitter投稿)リメイク
[0回]
二つ並んだ傘の下、若島津はクスクス肩を震わせた。
「何がそんなにおかしいんだ?」
「だって、日向さんの傘、骨、折れてる」
ホントだ……。
「貸して」
「…………」
「直ったとは言えないけれど……。はい」
あいつが応急処置した傘は、ふいに表れた風にひっくり返って元通り。
「ごめん。余計ひどくなった」
「しゃーねーな。もうちょいそっち寄ってくれ」
ぼろい傘でよかった、なんて思う俺はおかしいだろうか。
「もっとこっちくれば? 肩、濡れてる」
「そしたらお前が濡れる」
「平気だって」
「平気じゃねえの」
「ほら、日向さん、もっとこっち。何してんだよ」
ちっとも全然平気じゃねえって。
気付けよ、バーカ。
(2019.5.21twitter投稿)リメイク
[0回]
彼の何気ない仕草がヤバいと思う。
別に気の利いた台詞なんか要らないんだ。
床に広げた新聞に被さるように屈む背中も、
煮込んだシチューを皿によそう手つきも、
それから、口の周りを白くして歯を磨く時も。
一つ一つの仕草がやばすぎる。
カメラにおさめたくなる。
俺に絵心があれば、紙の上で鉛筆を走らせたくなる。
だけど出来ないから、ただ、見つめる。
触れたくて伸びてしまいそうな手を隠して……。
「熱いから俺が先に洗うぞ」
「どうぞ」
ああ、どっちがシャンプーでどっちがリンスかを確かめてるこの人もいいな。
ポンプを押す手もいい。
飛沫を飛ばしながら髪を濯がれるのはちょっと迷惑ではあるけれど、それも悪くないな、と思ってしまう。
「あー、悪ぃ。飛んじまったか?」
「ううん。大丈夫。……あの、さ」
「なんだ?」
「耳の裏もちゃんと洗ったら?」
耳の形がいいんだよねー。
「首に泡がついてるよ」
「ここか?」
そこにちっちゃーい黒子があるんだ。
「直ぐにのびちまうなぁ」
顎を擦るあんたもいい。
「若島津、髭剃りとってくれ」
この人、歯磨きから髭そりから何でも風呂で済ますんだよね。
見ていて飽きないからいーんだけどさ。
(2019.5.19twitter投稿)リメイク
[3回]
「今頃そんな事しなくたっていいだろ?」
「そうだけど……気になる」
日付が変わろうとしているのに、やけに気になって窓を二枚拭いた。
「外側拭かなきゃ綺麗にならねえだろ」と日向さんはベランダへ出た。
「外は俺がやるから」と言ったけれど、「ごたごた言ってないで手を動かせ」と、ピシャリと窓を閉められる。
俺の手の動きにあわせ、あの人の手も動く。
闇を背にした日向さんはとても綺麗で、恰好いいとかそんなんじゃなくて、本当に泣きたくなるくらい綺麗で、ついつい見とれてしまったんだ。
「さみぃー」
「ごめん」
「綺麗になったか? 夜だからあんまり、わからねぇな」
「ううん、綺麗だった。すごく、すごく」
冷たくなった手を握りしめて、そこに唇を寄せた。
「どうした? 今日のお前は変だな」
「そうかな?」
全てわかったように、彼はクッと喉の奥で笑った。
あくる朝、カーテンを開けると、空が昨日よりも青かった。
昨日よりもコーヒーが美味しくて、
昨日よりも目玉焼きが上手く焼けて、
昨日よりも、この人が好きになった。
毎日、毎日、好きになる。
「若島津」
「なに?」
「お前、今日は一段と綺麗だな」
「バカ、なに言ってんだよ。窓が少し綺麗になっただけ」
(2019.5.18twitter投稿)リメイク
[3回]
日一日と濃さを増す緑の小径を抜けたなら
そこにあるのは二人の時間。
「日向さん、夕飯なんにする?」
「ったく。おまえの時計はどんだけ進んでるんだ」
まずはモーニングから―――。
(2019.5.17twitter投稿)
[1回]
「日向さん、もしも俺が……」
「またかよ。お前ってホント、もしもの国の人だよな。」
「そんな事ないって。もしも俺が……」
「待った。先に死んだらとかそういうのはナシな。おっかねーから。」
「大丈夫」
「ならいいぜぞ」
「もしも俺が」
「あ。女だったらってのもナシ。お前はでけー男だから。」
「違うって。もしも俺が……」
「ストップ! 別れるって言ったら?つぅのもナシ。絶対別れないから」
「絶対そんな事は言わないよ。だから、さ」
「なんだよ」
「もしも俺が……」
「なんだよ、マジこえーじゃんか」
「だからさ、もしも俺がもっとしたいって言ったら……」
「バカ! 早く言えよ」
「だって、日向さんが……」
「あー! 面倒くせえ! もしもの国から移住して来いよ。バカたれ!」
(2019.5.17twitter投稿)リメイク
[3回]
「なぁ」と言うだけでいいんだ。
「うん」と言って、ベッドに滑り込んでくるから―――。
「どんな風にしたいんだ?」
あいつは「フフ」と笑って、長い腕を巻き付けてきた。
(2019.5.15twitter投稿)
[1回]