C翼二次創作/小次健love!  

3周年記念SS『12月1日』

寮の玄関脇にダンボール箱が置かれた。
そこには来年のカレンダーが入っていて、垂れ下がった蓋の内側に「一部屋につき一個!」とマジックでデカデカと書かれている。
「ろくなのないでしょ」
そう言ってもらいもののカレンダーなんぞに目にもとめない人もいれば、片っ端から広げて物色する人もいる。
前者は早々にアイドルやお気に入りのスポーツ選手のオフィシャルカレンダーなんかを買っている人達で、後者は金も手間をかけなかったヤツらだ。つまり俺達。

「んだよ、〇〇スポーツのがねえじゃねーか」

ついでに後者はただで貰うくせして文句だけはつける。
俺の隣で箱の中を漁る男もそうだ。

「箱が置かれてから二日も経ってるのにあるわけないって」
「しゃあねえ車屋のを探せ」
「無理だって。ソッコー無くなってる」

毎年、スポーツ用品店のカレンダーと車屋のカレンダーだけは争奪戦だ。因みにそれらが下級生の手に渡る事はない。
学年関係なく寮生全員に権利があるとはいえ、カレンダーごときで先輩の恨みを買おうとするヤツなんかいないのだ。
つまり、スポーツ用品店と車屋のカレンダーは俺らと同学年のヤツの部屋にある。

「誰だよ!持ってったヤツ」
「誰かわかったらどーするの?」
「〇〇石材店と交換だ」
「ひど…。てか、なんで墓石屋のカレンダーがあるんだろうね」
「知るかよ。ったくろくなの残ってねーじゃんか」

この男、「泣く子も黙る日向小次郎」と恐れられてはいるが、どうやら墓石屋カレンダーと交換させる気はないらしい。
・・・だよね。たかがカレンダーだし。
とはいえ、墓石屋カレンダーを箱に戻さないのが少し気になるのだが・・・。

手間も金もかけなかった上に出遅れた俺たちは、残りものの中から少しでもましな物はないかと片っ端からカレンダーを広げた。
たかがカレンダーとは思っていても、一年という時間をそれを眺めて過ごすわけで、ここで妥協するのもなんとなくしゃくだ。
隈なく見てそれでも墓石屋をカレンダーを超えるものがなければ諦めよう。

「日向さん、これは?」
「しまじろうかよ」

どこからどういうルートでここに来たのか気になったが、とにかくBネッセカレンダーはあっさり却下された。

「しまじろう、可愛いじゃん。虎つながりでいいと思ったんだけどな」「服着て二足歩行の動物は気持ち悪い」
「はは。なんだよ、それ」

日向さんは俺の手からBネッセカレンダーを取りあげて「まあ、一番気持ち悪いのはキティだけどな。顔だけ正面向いてて怖ええ」と箱に戻した。
つまり、しまじろうは石屋以下だ。

「もっかい言ってよ」
「は?」
「『キティ、怖ええ』って。どんな顔で言ったのか見逃しちゃった」
「ばーか」

ポンと頭を石屋のカレンダーで叩いて、日向さんは立ち上がった。
俺もそれに続いた。

「結局それにすんの?日付だけとかシンプルな方が使いやすくない?」「いや、それだとお得感がない」

キティが怖いだの、お得感がないだの、この人の口から聞けたのが嬉しかった。
どうって事もない、大した意味のない会話が。


部屋に戻ると、日向さんがものすごく適当に〇〇石材店のカレンダーをかけた。
配置が微妙に気持ち悪かったけれど、「ここでいいか?」ではなく「ここでいいよな」と言われたので、「うん」と言ってしまった。
それから日向さんは、『日本の四季』と書かれた表紙の下にある12月のカレンダーにマジックで印をつけた。

「何日につけてんの?」
「29。高円宮杯」


あれから一年、月が変わる毎にカレンダーの中の季節も変わっていった。
紙の中の景色を眺めながらたくさん話をした。
「春だね」とか、「夏らしいな」とか、本当にちっぽけな会話ばかりだったけれど。
二人で眺める景色はどれも綺麗だったし、いつになるかわからない約束もたくさんした。

「おおー。やはり12月は北海道かぁ。いつか行ってみよう」
「また?いつかっていつだよ」
「いつかっつったらいつかだよ」

軽口をたたきながら一年前と同じように日向さんはマジックで12月のカレンダーに印をつけた。

「何日につけてんの?」
「29。お前の誕生日」

日向さんは照れくさそうに、グリグリと29を〇で囲んだ。

「日向さん、覚えてたの?」
「覚えたんだよ。すっげー大事な日だから」



END


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ウブな中学生クン。しかもソッコーで書いたなんてことない落書きですが、気持ちだけ、気持ちだけ・・・(汗)

Thanks! 3rd anniversary
『tigre et neige』は本日3回目のお誕生日を迎えました。







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