88.『気づいて感じて』(名刺SSテキスト版)
こいつがふと立ち止まって見上げた先にあるものを俺も一緒に見上げる。
そこには空や雲や風があるだけだけど、冬だな、と俺は思う。
一瞬、時が止まる。
止まってゆっくり流れ始める。
こいつは香りを楽しみながらお茶を淹れるから、俺も香りを感じながらカップを傾ける。
立ち上る湯気に気持ちが解ける。
解けてほっこり温まる。
こいつは俺より感じやすいから、俺もこいつの肌を通して感じる。
こいつは静かな場所を好むから、俺も耳を澄ます。
一人だったら気づけなかった事がたくさんある。
やば。すっげえ気持ちいい。
焦らしてるんじゃないんだぜ。
もっと感じていたいんだ。
声も、匂いも、体温も、
それから、泳ぐように足がシーツに絡まる音だとか……。
(2019.6.10 twitter投稿)再録