94.『魔法のランプ』(名刺SSテキスト版)
ストーリーもわかっているし、アニメ化もされた映画。
誘うのは勇気がいったけど、たまたまチームメイトが「面白い、面白い」と騒いでいたし、隣にある横顔をチラリチラリと伺いながら「俺も観たいな」と彼のジャージを引っ張った。
彼は一瞬驚いたような顔をして「俺とか?」と俺の顔を覗き込んだ。
跳ね上がった心音を聞かれてしまいそうで、「ごめん。無理しなくてもいいよ」と直ぐに打ち消したけれど、彼は「なんでだ?」と更に顔を近づけて、「無理じゃねーよ。猿、可愛いしよ」
と屈託無く笑った。
こんな感じで、一緒に『アラジン』を観に行ったわけだけど、二人で映画を観るのは初めてで少し落ち着かなかった。
映画は面白かったけど、彼が楽しんでるのか、それも気になったし、映像を追いながら時々思考が現実に移ったりした。
帰りの電車の中で日向さんが言った。
「3つ願いが叶うとしたら、おまえは何を願うんだ?」と。
急に言われて答えられなかった。
俺の願いは叶えられない類のものだから……。
「日向さんは?」
苦し紛れに聞くと、ソッコーで答えが返ってきた。
「家族が幸せでいること。おまえが長生きすること。俺が長生きすること」
車窓から差し込む西陽を映して光る瞳に、叶わないなあと思った。
「あのさ」
「なんだ?」
「願い事って、具体的に言わなくてもいいのかな?」
「さあな。……けど、生きてりゃどうにでもなるだろ?」
道は自分で切り開くものだし、彼といれば、どんな事でも乗り越えられる気がした。
だから俺は、ただ、そばに……。
ずっと彼の側にいたい。
(2019.6.30 twitter投稿)