95.『4th』(名刺SSテキスト版)
早いもので若島津と暮らし初めて四年になる。
正直、いい事ばかりじゃなかった。
調子がいい時もあれば悪い時もあるし、思うように結果を出せない時は八つ当たりもした。
スープが冷めない距離にしておけば良かったか……そう思った事もある。
だけど、これだけは自信を持って言える。
別れようと思った事は一度もない。
「お前もだろ?」
「なにが?」
あ、ご飯粒……。
「ガキみてえに米粒なんかつけんなよ」
「あ」
恥ずかしそうに口元に移動した手を払った。
指先にくっついた白い粒はなんとなく健気だ。
塊だと「飯」にしか見えねえんだけどな。
「いい。そいつは俺が食う」
こいつの口に入りそびれた飯粒を俺が食う。
こいつが抱えきれない事があれば、そいつも俺が食う。
こいつが泣きたい時は、こっそり泣かせてやろう。
今までこいつがそうしてくれたように。
「五年目突入だ」
「あっという間だったね」
今日も飯が美味い。
「日向さん、おかわりは?」
こいつがよそってくれた飯がすごく美味い。
(2019.6.24 twitter投稿)再録
サイト開設4周年(2010.12.1)にご挨拶代わりに書いたものです。