C翼二次創作/小次健love!  

「運命の出会い」

↓  リハビリです

小次健さんは「運命の出会い」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう
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ドクンと心臓が跳ねた。
瞬きするのも忘れた。
音が消えた。周りにあったものが消えた。光の道ができた。
足が宙に浮き、身体が前に傾いた。
気がつくと、俺は地面を蹴っていた。

「おまえ……キーパーやらないか?」
「キーパー? キーパーってサッカーの?」
「そうだ」
「あんた誰? いきなりなに? それより謝れよ。道端でボールを蹴ったりして、俺じゃなかったら避けられなかったかもしれないじゃないか」
「それだよ、それ。だからおまえは俺とサッカーやるんだよ」
「はあ? なんで俺が。あんた一体俺のなにを知っているっていうのさ?」
「知らなくたってわかるんだよ。ごちゃごちゃ言ってねぇで一緒に来いよ!」

ガシッと掴んだ手は俺より一回りでかかった。
マメでもあるのか手のひらは少しカサカサしている。

沈みかけた太陽が背中に刺さる。
ソイツの手を引いてアスファルトに細く伸びる黒を追いかけた。

走って、走って、走って、走って、
監督の家まで走って走って走って走って、

「監督、キーパー見つけてきた! 俺が見つけた」

扉を開けるなり俺は叫んだ。


「いったいなんなんだよ」

俺の半歩後ろでソイツが不満気に言う。

「嫌なら逃げればよかったじゃねぇか」

言い返すと、ソイツは「なんでかなぁ」と言って白い帽子を脱いだ。
ぽり、ぽり、と頭を掻く手はやっぱりでかい。
目の前に道ができた気がした。
コイツだ!と思った。

「名前くらい教えてよ」
「あ、ああ。日向小次郎だ」

「ふーん」と言って俺を見る目は負けん気が強そうだ。
しかも、おっそろしく綺麗。
うん。その目も気に入った。やっぱコイツしかいねえ!

「監督、コイツすげえんだ。俺が蹴ったボールを振り向きざまに弾いた。……あ、道端で蹴ったのはたまたまだ。何も壊しちゃいねえ。ドリブルしながら歩いていてちょっと力加減が……ま、いーや。とにかくすごかった。コイツならできる。コイツがいれば明和FCは……」
「小次郎、少し落ち着け」

息をつくのも忘れて捲し立てると、監督は呆れたようにハァと息を吐いた。
だけど、顔は笑っているみたいだった。

「突っ立ってないで家にあがれ」
「あ、はい」

「あがれってさ」と言いながらソイツの背中を押した。
ソイツはまた「なんで俺が」と言ったけど、俺の手を振り払ったわけでもないし、「嫌だ」とも言わなかった。


擦り切れた畳の中央にはちゃぶ台が置かれている。
そこにはぐい呑みとサキイカと鯖缶が缶のまま置いてあった。
部屋の空気は酒と魚と缶の匂いが混ざっている。
そこにおっさんの匂いも加わっていた。
おでん屋でバイトをしている俺はおっさん臭にも酒の匂いにも慣れていたけれそ、ソイツは嫌なのか、監督に声をかけられるまでずっと下を向いていた。

「名前は?」

監督に訊かれ、俺とソイツは同時に「えっ」と声を上げた。

「小次郎、おまえじゃない。そっちの……」

この状況に腹は立ってもおかしくないはずなのに、ソイツはきちんと座り直し、丁寧な口調で答えた。

「若島津健です」

へぇ。コイツ「わかしまづけん」ていうんだ……。
そのあと監督は「わかしまづけん」に家はどこだとか、サッカーしたことはあるかとか、なんか色々きいたけどぜんぜん耳に入ってこなかった。
頭の中が「わかしまづけん」でいっぱいになったからだ。

わかしまづけん、わかしまづけん、わかしま……ん? わかしまづってどんな字だ? 変わった名前だな。けんは? まあいい。字なんかどーでもいい。

「おい。わかしまづ」
「え、なに? いきなり呼び捨て?」

わかしまづけんはジロリと俺を見た。
そうそう、その目。
「いいじゃねえか」と言ったら「わかしまづけん」はハァと息を吐いた。

「もう、なんなんだよ、これ。何がなんだかさっぱり……」
「気にすんな」
「気にすんなって……」

あ、いま笑ったか? 笑ったよな? うん、笑った。ヨシ! 

「よろしくな。わかしまづ」
「……よ、よろし……ま、まだ俺は何も決めてないからな!」
「いい、いい。返事は明日まで待ってやる。それでいいぞ」

うん。いいぞ、わかしまづけん。
気に入った。
なんでかしんねぇけどすっげえ気に入った。




帰り道、
「じゃあ、明日な。わかしまづ、約束だぞ。絶対に来いよ」
俺が言うと、「わかしまづけん」は不満そうな顔を向けた。
だけど、すっぽかしたりしないと思うんだ。
だって、「わかしまづけん」が言ったんだ。

「言っとくけど、決めるのは俺だから。あんたのサッカーを見て俺が決めるんだからな」って。

「それでいいぜ」
「ずいぶん自信があるんだね」
「あったりめーだ。俺のサッカーはその辺の甘ちゃんサッカーとは違う」

ハハッと「わかしまづけん」は声をあげて笑った。

「あんたみたいなヤツ、初めてだよ」

日はとうに暮れ、ぽつん、ぽつんと街灯の灯りがぼんやり道を照らしていた。
空には雲もかかっていたし、月のあかりがあったわけじゃない。
星だって全然見えなかった。
だけど、やたら明るく感じたんだよなぁ。
風もすげぇ気持ちよかったんだよなぁ。

それが俺とあいつの最初の日。
その先の未来を決めた日——。






統一した設定があるわけではないのですが、うちのこじけんちゃんの出会いは、「日向が道端で蹴ったボールを若が振り向きざまで避けた」が多いです。
公式が何を出してくるかわかりませんし、今後それに寄せるかどうかもわからないのですが、(好き勝手やる人ですからwww)回したお題が「出会い」だったのでちよっと書いてみました。
ろくに書いていなかったこともあり、まとまりのない文になってしまいましたが、ササっと薄目で読んで頂けると助かります。


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