124.『Othello』(名刺SSテキスト版)
談話室で向かいあい白と黒を増やしていく。
俺が黒であいつが白。
「角とられると巻き返せねぇな」
「そう?」
黒い丸が白く代わり、つぎつぎ場所を増やしていった。
まるで自分を見ているようだ。
胸の中、おまえの場所がどんどん増えていく。
「ほら、頭つかって巻き返してみてよ」
カチャカチャと手のひらの中でプラスチックの転がる音がする。
余裕の笑みが悔しくて、だけど、とうてい敵わない。
「巻き返し不可能」
「らしくない。全部おまえがひっくり返す」
「よく考えなって。まだまだ勝負は終わってないよ」
認めたくはないが完敗だ。
「俺はおまえでいっぱいだ」
「…………」
若島津はオセロを一枚摘まんで言った。
「日向さん、これ、黒と白、二つで一つだよ」
「…………」
「……部屋、行こっか」
(2019.8.22 twitter投稿)初出2007.7