C翼二次創作/小次健love!  

126.『秋だなぁ』(名刺SSテキスト版)

ベッドの中でバスルームからする水音に耳をすませる。

最初に首を右に傾け、左側から洗う。
次に、少し顎を上げ、喉を通り泡は右側に移動する。
それから、左腕、胸、右腕、腰………、
我ながらよく覚えていると思うのだが、日々繰り返される同じ動作の中にある順番が変わることは殆どない。

バスルームのドアが開く音がした。
近くなる足音に俺は目を瞑る。
(ばーか。そんなに見るなって)
シャンプーと石鹸の匂いがそれを教えてくれた。

「ただいま……」

ぐいと手をひくと、あいつは予想通りの顔で予想通りのことを言った。

「起きてたの?」
「起こされた」
「待っててくれてた、とか?」
「寝ないで待っていてほしいか?」

あいつは、ううん、と首を横にふり、「シーツが冷たいよりはいい」とベッドに滑り込んだ。

「コンビニで肉まん売ってたぞ」
「おでんもそろそろだね」
「そのうち葉も落ちて」
「いつの間にか冬になる」
「もうちょいゆっくり進めばいいのにな」
「時の経つのが早すぎる。……だけど」
「だけど?」
「秋は好きだよ」

こんな静かな夜は、ただ、肌の温もりや匂いを感じ、眠りにつくのも悪くない。

少し時間をおいて、
「どこか行きたい所はあるか?」
俺が言った時にはあいつは寝息を立てていた。

秋だなぁ…。



(2019.9.4 twitter投稿)リメイク

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