137.『なんとなく、10月』(名刺テキスト版)
時々あいつの髪に落ちる葉をよけながら、どちらからでもなく歩調をあわせる。
秋風に揺れる長い髪がカレンダーの中の姿と重なった。
「10月のお前はいい」
「はあ?」
「や、カレンダーの……あ、なんとなくだ、なんとなく」
「恥ずかしいから貼るなって」
「今日貼ったんだよ」
「一年前の俺に話しかけたりしてさ」
「話しかけてねぇって」
「なんとなく面白くない」
「なんとなく言いたいことはわかる気がする」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃねぇよ」
「今、何時?」
「えーと」
一歩進む毎に秒針が進む。
少しずつ秋が深まる。
「秋が似合うな」
「は?」
「なんとなくだ、なんとなく。……箒に乗れそうだ」
「日向さん、なに言ってんの?」
紙の中のお前はこんな顔はしないわけで、それがなんとなくではなく嬉しかった。
「乗るのは箒だけじゃねえけどな」
「ばっ! なに言ってんだよ」
なんとなーくそうしよう。秋の夜は長いから。
(2019.9.21 twitter投稿)リメイク