『かき氷』(夏の小次健ふりかえり12)
慎重に距離を縮め、タイミングを測ることが出来る妹が羨ましかった。
最初から距離が近い俺はどうすればいいのだろう。
しかも、相手は男だし。
友達だし。
仲間だし……。
残りのかき氷を口に放り込み、空になった器を手に立ち上がる。
「あら、健、まだそこにいたの?」
「いたよ」
「やだ。健ちゃん、今の話、聞いてた?」
「聞いていたよ」
「ねぇ、健ちゃんはどう思う?」
「どうって……」
言葉に詰まっていると、「何かきっかけが欲しいわよねぇ」と姉が言った。
「そうだね」
そうしか答えようがなかっただけなのに、姉は満足したように「そうよ、そうよ」と声のトーンを上げた。
「花火大会があるわよ。誘ってみたら?」
「でも……」
「大丈夫。距離、縮まるわよ」
花火大会、か。
誘うことは簡単だ。
だって、彼は「友達」だから……。
いつか、自分も日の当たる場所で恋の話をすることが出来るだろうか。
落とした視線の先、溶けた氷がテーブルの上で不格好な染みを作っていた。
END