『線香花火』(夏の小次健ふりかえり4)
橋の下で花火をした。
日向さんは二三本同時に火をつけたり、ぐるぐる振り回したりした。
「多過ぎんじゃね?」
「小さいパックにすればよかったかな?」
沢山あったはずなのに、いつの間にか残りは線香花火だけになっていた。
二人並んで線香花火に火を点ける。
「あーあ、もう落ちちゃった」
線香花火ってなんだか切ない。
遠い昔を思いだす。
あの頃は、好きだと言う事も出来なくて、想いを認めるのも怖かった。
家族でやった残りの線香花火。
道場の陰で、しゃがみ込んで一人でやった。
それはパチパチと短く花を咲かせ、あっと言う間にポトリと落ちた。
何度やっても直ぐ落ちた。
「下手くそ。手が震えてるからだ」
日向さんは、ぶっきらぼうにこう言って、俺の手を両手でしっかり包んでくれた。
次々花が咲いていく。
音を変え、形を変え、咲いていく。
「線香花火って、結構長いんだ」
「だろ?」
「綺麗」
「お前の方が千倍綺麗」
「え?」
「あーあー、落ちちゃったじゃねえか」
「ごめん……」
燃えカスをバケツに放り込んだ。
ふわりと肩が温かくなった。
「ラスト一本。その前にちょっとばかし気合い入れようぜ」
キョロキョロ辺りを見回し、短いキスをした。
「いいか。しっかり持ってろよ」
「うん」
「行くぜ!」
ぷっ!
「んだよ。笑うなよ」
「いつでもマジだね、あんたって」
「ったりめーだ」
アハハ……。
「笑うなって。火ぃ点けらんねえだろ?」
「ごめ…、もうちょっと待って」
「待てねえよ」
日向さんは俺の背中に被さって、線香花火に火をつけた。
「動くなよ」
「うん」
でかい男が二人がかりで小さな花火と真剣勝負。
「あとちょい」
「動くなっ!」
「どーよ」
「さすが。……コレ、記念に持って帰りたい」
「ちっ、くだんねえ」
言いながら、薬指にキュッと結ばれる。
「これは何の指輪?」
「花火の燃えカスだ」
「ちぇっ、喜んで損した」
「こんなもんで喜ぶな」
指から抜かれた燃えカスは、ちょっと目を離した隙に何処かへ消えた。
「燃えカスは?」
「捨てた」
「ええーっ!」
********
一ヶ月後、
目覚めると指には銀色の輪っかが嵌っていた。
「これ?何?」
「見りゃわかるだろ?」
「いつの間に……。それにサイズも」
日向さんは照れ臭そうにボソッと言った。
「記念に持って帰りたかったんだろ?」
END