C翼二次創作/小次健love!  

『観覧車』(夏の小次健ふりかえり9)

↓ 『観覧車』




日向さんという人は、昼となく夜となく俺に会う為に、いや、ぶっちゃけ俺とやるために免停覚悟で高速をぶっ飛ばして来る。
当然オービスの場所は把握しているし、ネズミ捕りも見事に察知する。
けれども俺に言わせれば、「速きゃいいってもんじゃないんだよ!」とまぁ、その程度のドライビングテクだ。
一見スピード狂かと思われるが、実はそうでもなかったりする。
ただ俺に狂ってるだけ……て何言ってんだ、俺。恥ずかしい奴め。

とにかくあの人の頭と身体は非常にシンプルな細胞で構成されている。
動物的スピード、刺激には滅法強いくせに本当はメカはあまり得意じゃないのだ。原始人みたいな男だからね。
職業柄頻繁に空の上を行ったり来たりもしているが、離陸前はかなり心拍数が上がっているんじゃないかな?
あのGがかかるところが快感なのになぁ。絶叫マシンもダメなんだよね。
コースターに乗って事故に遭う確率と、荒れ狂う沖縄の海に飲み込まれて土左衛門になる確率では前者の方が絶対低いと思うんだけど。


高校三年の夏休み、二人で遊園地に行った事がある。
誕生日に何が欲しいか尋ねたら、日向さんは馬鹿の一つ覚えみたいに「お前」と言った。
「物でもしたい事でもいいからマジメに考えてよ」と言ったら、「欲しい物はお前の身体で、したい事はセックス」と答えやがった。
ここまで阿呆だと頭にくるよな。いつもとちょっと違う事がしたいのにさ。

寮の部屋にエアコンもあるにはあったが、不幸にも壊れていた。
窓を開けても風なんか全然入ってきやしない。
くそ暑い夜にあまりに暑苦しく迫られて、俺は「別な事を言うまでやらせん!」と北詰口調で言ってやった。

まる一日考えて日向さんは恥ずかしそうにこう言った。

「デートしたい。お前の行きたい所に行って、喜んでるお前が見たい」

何だよ、それ。高校生の言う台詞じゃないだろ?

「絶叫マシン三昧」
「え?」
「なにか?」
「遊園地かよ……」
「そ。なんか叫びたい気分」
「いつも声ださねぇで我慢すっからだ」
「うるさいよ。ドスケベ」
「はい~?俺は夜の話はしていませんが」
「と、とにかく内臓ひっくり返るまで乗りたいのっ!」
「…………」

「いやなの?」
「いや、別に」
「怖いとか?」
「んなわけねーだろっ!わかった、絶叫三昧だ。お前の内臓が口から飛び出したら俺が責任もって戻してやる!」
「…………」

「な、なんだよ。何か変な事言ったか?」
「…ま、いいや」


こんな感じで男二人で遊園地に行った。
まずはマックススピード1●0キロで軽くアップして、軽く飯を食ってから、腹ごなしにパ●ラットに乗った。
垂直落下は大した事なかった。
叫びたい気分ったって、イマイチ声が出ない。
だって格好悪いしさ。俺って余裕。

日向さんも無言だった。つーか、どんどん口数が減っていった。
やっぱ遊園地は失敗したか。
ギャーギャー怖がるのを見たかったんだけどな。

「もっかいあれ乗ろう!」
「一人で行って来い」
「むぅぅ。やだよ」
「わーったよ!」

長い行列に列んでいると、カナカナカナカナと蜩の声がした。
いつの間にか陽は落ちていて、パーク全体が張りぼてみたいにライトに浮かび上がった。
そう言えば、未だ「おめでとう」って言ってないや。

「やっぱり、これはいいや」
「せっかく列んだのにか?」
「気が変わった。クールダウンしよっか?日向さん、なにがいい?」
「馬」
「ふざけんなよぅ。それだけはやだ。観覧車で我慢しろよ」
「か、観覧車か?」
「せっかくの誕生日だし夜景見ながらオプションつけたげるからさ」

フーっと耳に息を吹き込むと、フーンと日向さんの鼻息が荒くなった。
耳と鼻は繋がってないよな。

ピロロロロとベルがなって観覧車が動き出した。
すると、日向さんは向かい側から俺の隣に移動してびったりと身体を寄せてきた。
なんつーか、こんなとこでこんな風にくっついて。すっごく恥ずかしい。
でも誕生日だし。

「てっぺんに行くまで待ってて」
「…………」
「日向さん?」
「…………」
「ひゅうが、さ、ん?」

うわぁ!どうしよ。真っ青だし。
マジで内臓ひっくり返ってっかもしんないし。

ぐるんと腕をまわした時に触れた頬が冷たかった。

「速くないよ。すごくゆっくりじゃん」
「た、たけーよ…」

すっげー可愛い!怖がり日向!
もう、めちゃめちゃ可愛くて、よしよしってやって、ついでにてっぺん着く前にオプション登場!
それがさぁ、日向さんの唇が開かないんだよ。
なんつーか、それがまたすごくよくて……。
ボンドでくっつけたみたいなキスでさ。

いろんなキスをしたけれど、あれほどバカで可愛いキスはなかったんじゃないかな。



END



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