『なんとなく幸せ、すごく幸せ』
「大丈夫?」
と、伸ばした手はぶんと払われた。
「あー、悪ぃ。平気だ。少し休めばよくなる。若いのが三人やられていたから検査もした。インフルとかそういうんじゃなかった」
「でも……」
「ほんとに大丈夫だから。移るからあっち行ってろ」
シッシッと追い払われて寝室の扉を閉めた。
キッチンに行って粥を作り、スライスしたレモンを蜂蜜に、生姜を黒糖に漬けた。
他にもできそうなことを探したけれど、濃いめに淹れた紅茶を冷ましておくことぐらいしか思いつかなかった。
滅多に風邪をひかない人だから、酷くなるまで気づかなかった。
俺も、たぶん本人ですら、なんかやばそう、の線がわからないのだ。
「ごめんね。気づかなくて」
しんなりと蜜を吸ったレモンをグラスに入れ、冷えたダージリンを注いでいるとふわりと背中が暖かくなった。
「美味そうだな」
「えっ? 日向さん、起きて大丈夫なの?」
「おう。治った」
「治ったって……」
「言ったろ? すぐに良くなるって。熱は下がった。咳も止まった。いい感じに腹も減っている」
ほんの数時間横になっただけなのに、嘘のようにスッキリした顔で笑う彼が可笑しかった。
「もう、なんなんですか。人騒がせな人ですね」
全快だから脂っこいものが食べたいと言う彼を説き伏せて、白粥を何度も茶碗によそった。
「面倒くせぇだろ? 丼につげよ」
「そんなことはないですよ。……あ、足ります? おかわりします?」
彼は、持ち上げたレンゲで口元を隠しクククと笑った。
「なんか、ままごとみてぇだな」
「失礼な」
「けど……幸せだ」
ああ、そうだね。
すごく幸せな時間だよね。
そこに声があることが。
俺が渡した茶碗を大事そうに持ってくれる手や、俺が作った粥を口に運び喉を滑らせる動きを目で追えることが。
すこし手を伸ばせば、触れることもできることが。
目が合えば、同じように口角を上げていることも——。
そのまんまタイトル(笑)
ザザッと書きですけど、なんとなーくほっこりして頂けたら嬉しいです。