C翼二次創作/小次健love!  

しずけき夜に

俺にとってクリスマスは単なる祭りでしかなかったし、どんな日かは知ってはいても正確には解っていなかった。
どんな人がどんな歌を歌うのかも考えたこともない。
ただ、いつの間にか覚えた歌詞をなぞるだけだ。

『しずけき真夜中 貧しうまや 神のひとり子はみ母の 胸に 眠りたもう やすらかに』

あいつが何気なく口ずさんだ歌が自分が知っているものとは違っていて、すごく驚いたわけではないけれど、さらりと聴き流せるほどでもなかった。

「その歌、なんだ?」

訊くと、あいつは「えっ?」と声をあげた。

「『しずけき』ですよ。日向さん、まさか歌ったことがないとか……」

そこまで言って、あいつは「あー、そうか」と頷くように首を縦に数回振った。

「『きよしこの夜』ですよね?」

あいつの「ですよね」に返す言葉が見つからなくて、「まぁ」で誤魔化した。

「カトリックだったんですよ」
「なにが? え? おまえんち?」
「違いますよ。うちじゃなくて幼稚園」
「幼稚園?」
「そう。俺が通っていた幼稚園がね、カトリックの幼稚園で、『きよしこの夜』じゃなくて『しずけき』なんです。因みに讃美歌じゃなくて聖歌って言っていました」
「ふぅん」

本当に「ふぅん」て感じだった。
ただ、何度も聴いたことのあるメロディに乗る知らない歌詞がこそばゆかった。
なんとなく、出会う前のコイツをちらりと覗き見たような気がした。

「幼稚園かぁ……」
「なに?」
「いや、チビのおまえはどんなだったかなぁと思ってさ」
「普通。……日向さんは?」
「普通。普通の悪ガキ。たぶん、おまえの想像どおり」

クスと笑った顔がいつもより幼く見えた。

ほんとうに、どんな子だったのかなぁ。
普通のお坊ちゃん、かな。





メリークリスマス








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