つかのまの
帰省するつもりで昼過ぎに若島津と二人で寮を出たが、途中本屋に寄ったり、茶を飲んだりふらふらしているうちに面倒くさくなった。
それでも、家には帰ると言ってあるし、今さら帰省はやめたと連絡するのも面倒だ。
吊り革につかまり車窓を流れる景色をボーっと見ていたら「うーん」と隣から唸り声がきこえた。
「なんだ?」
「え? ああ……」
若島津も面倒くさいと言った。
「帰ってもすることないんだよね」
「空手は?」
「空手かぁ……」
「じゃあ、やめるか?」
「うーん。それも面倒くさい」
「ちょちょっと顔だけ出して直ぐ帰るとか」
「だったら、遊んでからちょちょっとの方がいいな」
「遊ぶって? 何をして? 俺はそれでも構わないぞ」
若島津は「相手は自分で確定なんだ」と笑った。
「違うのか?」
「さあ……」
「ひょっとして、ホントに違うのか?」
「さあね」
おいおい、それはねぇだろう、と腕を掴むと同時に電車が止まった。
「着いちゃった」
「おい」
スタスタ歩き出した背中に呼びかけると、若島津は振り返ってニコォと笑った。
ポケットから取り出したスマホの上でササッと指を滑らせて、
「遅刻したら怒りますよ」
それだけ言ってパタパタと掛けて行った。
液晶に並ぶ文字についにやけてしまい、「おー」とだけ返信をした。
『帰ったら夕飯あるから今日は我慢します。明日10時、明和神社、初詣』
高校選手権が終わったのでザザッと書いてみました。
これもいつか書きたいシチュ。あ。結構書いたかもしれません(笑)