C翼二次創作/小次健love!  

37.『遅刻だ』(名刺SSテキスト版)

やべえっ!二度寝したっ!

「おい、若島津、起きろっ!」
「んぁ?」

3秒で着替えて、10秒で顔を洗い、30秒で歯を磨いた。
パンを齧りながらダッシュする。
今週は「遅刻撲滅週間」
1秒でも遅れると門が閉まる。

「日向さん、早く、早く!」
「ま、待て。鼻から牛乳がっ、口からパンがっ」

「あ。パンくず」

あいつの指が口の横をかすって、それをペロリと舐められて、口からパンと一緒に心臓がっ!

「早くしろってばっ!」
「おおおおおおおうっ!」

ガシャーン!

「日向ぁ。若島津っ! お前らは朝練のない日はマトモに登校出来んのかっ!」

「すいませーん」「すいませーん」

「昨夜、ちょっと羽目外しすぎたな」
「あんたが調子にのるのが悪いんだろ?」

「なーにをコソコソ言ってるんだぁっ!」

「すみませーん」「すみませーん」

「あ。こっちにもパンくず」

あいつの指がまた掠った。
で、またペロリ。

「お前も牛乳ヒゲ」
「ウソッ」

でっけー掌が口元を覆って、形のいい鼻の上、真っ黒な目ん玉が真ん丸くなって、可愛いったらありゃしない。

「ウッソー」
「もう、びっくりするじゃないかぁ。日向さんたら、やだなぁ~。もう~」

「…………。は、早く教室入れ」

「ウィーッス」「はーい」



(2019.4.22 twitter投稿)再録





拍手[4回]

36.『植木屋のおじさん』(名刺SSテキスト版)

チョキン、チョキン、チョキ、チョキ。

「若、こんな所にいらしたんですか? 危ないですから、部屋に入りましょう」
「やだよ。だって、葉っぱ切るの見たいもん」
「我儘言わないで。犬山が叱られてしまいます」
「ちぇーっ。つまんない」
「さ、行きましょう。……おや、紙飛行機ですか?」
「うん。でも、あんまり飛ばないの」
「どれ、犬山が作って差し上げます。一回飛ばしたらおしまいですよ」
「わかった」

ひゅう~、パスッ。

「飛ばないよ」
「おかしいですねぇ」

「坊ちゃん、私が作って差し上げましょうか?」
「いいの?」

植木屋のおじさんの作った紙飛行機はすごいんだ。
ぴゅーって飛ぶの。
ながーく飛ぶの。

「うわぁ、すごい!」
「でしょう? 倅が好きでねぇ。誰にも教えちゃダメですよ。さ、お部屋に戻って下さい。危ねえですからね」
「わかった。ありがとう、おじさん」



「日向さん、遊んでないで早く宿題終わらせなよ」
「うーん、やる気でねぇ」

日向さんはルーズリーフを一枚外した。

「いてっ。何、遊んでんのさ。ガキみたいな事して遊ぶなって……あ、これ、オリジナル?」
「おお。すっげー飛ぶだろ?」

「倅」
「は?」
「植木屋のおじさんの言ってたのって……」
「なんだよ、それ。ぜんっぜん分かんないんだけど」
「秘密。誰にも教えちゃいけないんだ。約束だから」



日向父、植木屋妄想
(2019.4.21 twitter投稿)リメイク







拍手[2回]

34.『許さなくていいから』

「日向さん」

試すような速さであいつの指が俺に向かって伸びてきた。

「泥がついてる」

それが目尻の先でピタリと止まった。

「日向さん、そこ。左の頬」

泥を払うより先にあいつの手首を掴んだ。
黒い瞳が一瞬大きくなった。
グラリ、と地面が揺れた気がした。
触れた唇も、掴んだ肩も、ガチガチに硬かった。

「俺……」
「許さなくていいから、目を瞑れ」

上の睫毛が瞳を隠すと、あいつはふわりと力を抜いた。





33(twitterタグ #文字書きさんキスシーンを14文字で表現してください)を元に書きました。
(2019.4.19 twitter投稿)


拍手[1回]

32.『春の歌』(名刺SSテキスト版)

「なんだよ。俺の顔になんかついてるか?」
「別に。……ただ、いい男だなぁと思ってさ」

彼は一瞬目を見開き、それから肩を震わせ「ククク」と笑った。

テーブルに映る影が、歌うように揺れる。

「春は柔らかいね」
「なにがだ?」
「いろんなものが」

また、彼が笑った。

「散歩でもするか」

影も揺れた。




(2019.4.18 twitter投稿)再録

拍手[1回]

31.『気配』(名刺SSテキスト版)

頬というか、口元というか、
温かいような、擽ったいような……

気づかれずにする自信が持てず、わざとらしく寝返りをうった。

壁に写った影が明けきらない日の光を受けて揺れた。

「言ったら何か変わるかな」

背中で聞いた声も揺れた。

「俺もだ」
「え?」

「だから言う。たぶん、いい方に変わる」




(2019.4.17 twitter投稿)

拍手[1回]

30.『高速道路』(名刺SSテキスト版)

前方に伸びる道路は現実へと続く。
春にしては重い雲。
車窓を流れる景色は冬の名残を残していた。

身体の奥に残る彼の感触に喉が詰まる。

何度、肌を重ねても、何度愛を囁かれても、もっと、と思う。

「インター下りると切り替わるんだけどな」

肺の底から一つ息を吐き、ステアリングを握り直した。




(2019.4.16 twitter投稿)

拍手[4回]

29.『小雨』(名刺SSテキスト版)

寮から学校まではゆっくり歩いて10分。
傘立てに並んだ傘がいつもより少なかった。
たいした雨じゃないけれど、濡れた緑がとても綺麗で、玄関で傘を二本手にして待った。
日向さんは、「傘、いらねえだろ? 帰り、忘れそうだし」と言ったけれど、「俺が覚えているから大丈夫」と差し出した。

珍しく俺の後ろを歩くので、振り返ると、驚いた様な顔をして、「なんでもねえ」とボソッと言った。

「なんでもねえけど……、もうちょいゆっくり歩こうぜ」

クラスメイトに何度か声をかけられて、追い越していく背中を眺めながら、俺達はゆっくりゆっくり歩いた。

「……好き」
「……は?」
「雨が……好き。傘をさして歩くのが……好き」

この頃、俺は雨や風、日の光とかあれやこれや引っ張り出して「好き」と言う。

「俺も、かな。お前と傘をさして歩くのは好きだ」
「…………」
「んだよ?」
「…なんでもない」

近くにありすぎるのかな。
言う事も、訊くことも出来ず、苦しくて、それでも並んで歩きたいと思う。

「やっぱ、特別なんだろうな」
「……え?」
「俺がこんだけゆっくり歩いてやるのって、母ちゃんと直子と……お前だけ、かな?」



(2019.4.15 twitter投稿)リメイク






拍手[4回]

28.『寝癖とか、欠伸とか』(名刺SSテキスト版)

眩しくて目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む光が白い頬を照らしていた。
生え際に手を当ててそれを遮る。

眉、目、鼻、口……。

「ったく。もうちょいここをこうしたいとか、全然ねえのな」

時々、綺麗過ぎて怖くなる。
理由もなく泣きたくなる。

「…ん……」
「悪ぃ。起こしちまったか?」
「ふぁぁ……。腹、減った。……な、なに? 寝癖すごい?」


馬鹿みたいだろ?
俺は、お前の欠伸とか、ぐしゃぐしゃの髪とか、そういうのに安心するんだぜ。

「日向さん、寝癖すごいよ」
「そうか?」
「勿体ないからそのままにしといてよ」

なあ、おまえも同じだって思っていいか?
だって、生活を共にするってこういうことだろ?

「なんかさ」
「だよな」

「まだ何も言ってない」と下げた目尻にキス一つ。



(2019.4.14 twitter投稿)リメイク




拍手[4回]