見送られるのも見送るのも苦手だ。
無理な事だとわかっているのに理由を探してしまうから。
「日向さん、やっぱり空港まで行く」
ずっと背けていた顔を見せた俺の頭をグイと抑えて、「俺が部屋を出て行くまでそのままでいろ」と言った彼の声が痛かった。
「また、どこにも行かなかったな。美味いもんも食わなかったな。今度会う時は、」
「いらない」
彼がクククと笑った。
「足りなかった分は次にな」
(2019.4.12 twitter投稿)2019.2.17日記掲載
[1回]
「若島津、息吸って」
「息?」
「そ。すぅーって吸ってみて」
「なんで?」
「いいから。言う通りにしてみて」
「へんなの」
「はい、吸ってー」
すぅぅぅぅーっ。
「吐いて、吐いて、吐いてー、ぜんぶ吐いてー」
はぁぁぁぁー。
「少し楽になっただろ?」
「?」
「溜息だって、たまに出してやんなきゃ苦しいだろ?」
「反町……」
「ついでに『好き』って言って来いよ」
(2019.4.11 twitter投稿)再録
[2回]
「消しゴムが勿体ねーだろ」
日向さんが言った。
なんのことか判らずに、ごしごしやり続けていたら「はぁー」と溜息をつかれた。
「何度書きなおしても同じなんだよ」
そういうこと、か。
「苦手なんだよね。作文とか感想文とか」
「作文はあった事を書いて、『楽しかったです』で〆ればいいし、感想文はあとがきを写して『感動しました』」
とかなんとか言いながら、日向さんが書く作文や感想文は妙な具合に個性的だ。
悪く言えば大雑把。だけど潔い。
そんな感じかな。
「日向さんは一発書きって言うか、書き直さないよね?」
「めんどくせーし。それに」
それに?
「時間が勿体ねえ」
「確かにね」
「そう思うなら、さっさと終わらせろ」
「先に寝てていいよ」
「いいって。セックスしてぇし」
「えっ!」
なんでこの人こうなんだ?
「今日は先にイかねえ」
そ、そんなストレートに……。
「…あっ…あっ……ああ、あっ……」
「………………っ」
「あ?……あ、あーーーー?」
もう?
息も整えずに新しいコンドームのパッケージを破こうとした日向さんに俺は言った。
「ゴムが勿体ないだろ?」
「?」
「何度やっても同じなんだよ」とは言わなかった。
(2019.4.10 twitter投稿)リメイク
[3回]
時折、薄っぺらい月が雲の隙間から顔を出す静かな夜だった。
そろそろ見頃じゃないかと、近くの公園に夜桜を見に行った。
少し離れた場所に桜の名所はあるし、人影はまばらで屋台があるわけでもなければライトアップされているわけでもない。
シーソーとブランコ、小さな砂場の横に水飲み場。
それを見守るようにポツンとベンチがあるだけだ。
「桜、少ねぇな」
「そうだね」
「やっぱり、あっちの……」
ふわり、と頬が温かくなった。
「バカ。こんなところで」
俺は笑いながら言ったのに、
「ずっと大切にするから」
真顔で言うあいつに、
胸のあたりが苦しくなって、
月も桜もブランコも揺れた気がして、
「帰るぞ」
夜露に湿った地面を蹴ることしかできなかった。
(2019.4.9 twitter投稿)リメイク
[2回]
レッズ戦の後、明和に行った。
建前は祖母の見舞いだが、急を要するわけじゃない。
「たまには顔を見せなさい」と母から電話があっただけだ。
途中、直子ちゃんを見かけた。
家まで歩いて二十分もかからない位置だったし、そこでタクシーを降りた。
一通り決まりきった挨拶を交わした後、自然と彼の話になった。
テレビや新聞、雑誌……彼の名を見かけることが少なくなってから半年になる。
「兄ちゃん、ユベントスに復帰できる?」
「あの人なら大丈夫」
「支えてくれる人とかいるのかな?」
「さあ。でも、幸せにするよ」
俺が、という言葉は飲み込んだ。
代わりに「誰かが」をくっつける。
「若島津さんみたいな女の人がいればいいのに……」
「え?」
「兄ちゃんもおんなじことを思っているんじゃないかな」
「男でごめんね」
「え」と声を上げた直子ちゃんの髪が風に揺れた。
遠くを見つめるような眼差しにもう一度声に出さずに言った。
『俺が、幸せにするよ』
見上げた空は抜けるように青かった。
お題:幸せにするよ
(2019.4.8 twitter投稿)
[2回]
「日向くんに言っちゃった」
ふいに飛び込んできた彼の名前。
教室の隅、数人の女子が固まりヒソヒソヒソヒソ。
「どうだった?」
「ダメだったぁ」
あーあ、可哀想に。
なんちゃって。
「サッカーのことしか考えられねえって言われた」
「お決まりのパターンね」
そうそう、お決まりです。
「でもさ、ほんとにいないのかな、好きな人」
いるよ。
「恐ろしく理想が高いんじゃない?」
そんなことはないでしょ。
「あー、そんな感じ。若島津くんもそうだよね」
「え?俺?」
「理想高そう」
「どうかな。目標は高いところにあるけど」
「恋の話だよ」
「ああ、そう」
「ねえ、日向くんてホントに好きなコいないの?」
「本人が言ってるならそうなんじゃない?」
「そうとは限らないじゃない。若島津くん、何か聞いてない?」
「聞いてないな」
「なーんだ」
なんだと言われてもねぇ……。
俺のもんだし、て言ったらどんな反応するかな。
「日向さんは俺が好きなんだよ」
「ええっ?」
「なんてね」
「若島津、何やってんだ? 部活遅れるぞ!」
「はーい」
「日向さん、俺のこと好きでしょう」
「今さらなに言ってんだよ」
ほらね。
「こら、あんまりひっつくな」
「いーじゃん、男同士なんだから」
「お前、変なもんでも食ったのか?」
(2019.4.8 twitter投稿)リメイク
[4回]
「なんだぁ?これ」
「五分以上って…ちょっ!日向さんっ」
んー、んーー、んーーん、んー?
「はい、終わりー。ヤベェ、ヤベェ。五分いっちまうかと思ったぜ」
「え?…っ、っ」
んーー、んんー、んーー、んん?
「はい、終了。今度もギリだったな」
「あの…」
「んだよ、三回目いくぞ」
「ちょっと待ってよ、わけわかんない」
「なんで、わかんねーんだよ。おまえ、バカ?」
「バカってなんだよ、バカって」
「だーかーら、五分以上キスしなきゃ出られない、の反対を考えろよ」
え?これ、トータルでじゃないの?
「次、行くぞ!」
んー、んーー、ん、ん、んー…
「日向さん、小泉さんが、
タ、タケシッ!
「あ、あの…」
「し、仕方なかったんだ。出られなくなるところだったんだ。五分だぞ。五分も日向さんと…」
て、外からは開くのか?
「タケシ、おまえにもチューしてやるか?」
「え?日向さん、いいんですか?」(ポッ///)
「あんた、なに言ってんだよ」
「冗談だ」
「言っていい冗談とそうじゃない……んっ、ん、んんーんーー…
「あの、俺はどうすれば…」
小次健は『5分以上キスをしないと出られない部屋』に入ってしまいました。60分以内に実行してください。https://shindanmaker.com/525269
(2019.4.7 Twitter投稿)
[1回]
妹が母親になった。
「健もそろそろ……」
聞き慣れた言葉なのに、赤ん坊の泣き声や家族の笑い声、柔らかな日の光にさえ胸が痛んだ。
「また、言われてしまったよ」
零れた声は彼の笑い声に乗って春の風に変わった。
「これ以上確かなものがあるか?」
「愛されているね、俺」
「愛しているからな」
お題:こんなにも
(2019.4.7 Twitter投稿)
[3回]
七夕は八月なんだぜ!
去年の七夕に何かを書いた気がして掘ってみたらありました。7/7に書いたみたい。
引用リツイートして、その後57577を書きました。
よろしければTwitterを見てみてくださいね。
名刺SSテキスト版は3つ追加しました。
もう少しおまとめアップも可能なのですが、ふらりと立ち寄った時にサササッと読めるものがあったらいいかなぁ~なんて思ったり。
とりあえず、繋ぎ的にお読み頂けましたら嬉しいです。
☆拍手ありがとうございました。
↓ メッセージのお返事です。
[2回]
快楽に溺れてしまう自分をみとめたくないのか、あいつは必死に声を押し殺す。
我慢した分だけ息が甘くなることに気づいていない。
「たまんねぇな。そういうおまえ」
顎に近づけた顔を後ろに引いて、ガッと突き上げると耐えきれずに「ああっ」と鳴いた。
鳴いたところで動きを止めたら振り返って俺を見た。
縋るような瞳を直ぐに隠したあいつの耳の後ろを舐め上げた。
軽ぅく腰を使う。
「どうしてほしいんだ?」
「…………」
「ねだれよ。俺がその気になるように」
漸く、そんな感じだった。
震える声であいつは言った。
「もっと、……深く……もっと、俺に……」
もっと言えよ。
もっと俺を欲しがれよ。
もっと、もっと、もっと……。
(2019.4.6 Twitter投稿)再録
[1回]