C翼二次創作/小次健love!  

137.『なんとなく、10月』(名刺テキスト版)

なんとなく目についた店で飯を食い、買い物をして、ふらふらふらふら歩く。
時々あいつの髪に落ちる葉をよけながら、どちらからでもなく歩調をあわせる。
秋風に揺れる長い髪がカレンダーの中の姿と重なった。

「10月のお前はいい」
「はあ?」
「や、カレンダーの……あ、なんとなくだ、なんとなく」
「恥ずかしいから貼るなって」
「今日貼ったんだよ」

「一年前の俺に話しかけたりしてさ」
「話しかけてねぇって」
「なんとなく面白くない」
「なんとなく言いたいことはわかる気がする」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃねぇよ」

「今、何時?」
「えーと」

一歩進む毎に秒針が進む。
少しずつ秋が深まる。

「秋が似合うな」
「は?」
「なんとなくだ、なんとなく。……箒に乗れそうだ」
「日向さん、なに言ってんの?」

紙の中のお前はこんな顔はしないわけで、それがなんとなくではなく嬉しかった。

「乗るのは箒だけじゃねえけどな」
「ばっ! なに言ってんだよ」

なんとなーくそうしよう。秋の夜は長いから。




(2019.9.21 twitter投稿)リメイク



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136.『秋の風』(名刺SSテキスト版)

秋の風が吹いた。
若島津の髪が揺れた。
あと何回この道を步くことが出来るだろう。

「日向さん、急ごう」
あと何回こいつに急かされて、

「1時間目、音楽かぁ」
あと何回二人で今日の予定を確かめて、

「来週の西高と練習試合だけどさ」
あと何回同じ場所にいられるだろう。

「なに? 日向さん」
「なにがだ?」
「ううん。なんでもない」

言ったらこいつはどんな顔をするだろうか。

欲しい。失いたくない。変えたい。変わるのが怖い。

「なぁ」
「なに?」
「なんでもねえ」

「へんなの」と若島津は笑ったけれど、そのあと「今度の休み」と言ったから、俺は幾つも言葉をすっ飛ばして「おまえと二人で」と言った。

サーと秋の風が吹いて、黒い髪が揺れて、
手を伸ばすと、「うん」と言って、若島津は静かに目を伏せた——。



(2019.9.19 twitter投稿)
小次健への今日の漢字テーマ【不安[ふあん]/気がかりなこと。心配なこと】
#漢字テーマ ttps://shindanmaker.com/731136



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135.『917』小次健の日(名刺SSテキスト版)

一緒に笑ってくれる。
俺を怒ってくれる。
怪我をすれば労わってくれる。
辛い時には、何も言わずに俺の好きなお茶を淹れてくれる。

弱さを俺には見せてくれる。
悔しさをぶつけてくれる。

柔らかく、激しく、強く、熱く
俺を酔わせてくれる。

この恋は、他より難しくて、不自由なこともあるけれど、

「なにじろじろ見てんだよ」
「別に。ただ……」

幸せだなぁって思ってさ。



(2019.9.17 twitter投稿)
小次健の日への今日の漢字テーマ【幸福[こうふく]/不自由や不満もなく、心が満ち足りていること(さま)】#漢字テーマ https://shindanmaker.com/731136

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134.『月見団子』(名刺SSテキスト版)

急に甘いものが食べたくなって、スマホだけ持ってコンビニに行った。
便利だよなぁ。
思いながら電子決済で団子と、ついでに缶ビールを買う。

さっき歩いて来た道をさっきより時間をかけて歩いた。
薄い雲を上手に避けて空に月が浮かんでいたからだ。
頬を撫でる風は温くもなければヒヤリとすることもなく、耳に届いた虫の声は煩くも寂しくもない。
「丁度いいなぁ」
なんの気なしに声に出し足を止めると」よお」と後ろから声をかけられた。
……え???
「夜中の散歩か?」
ここにいるはずのない男がここにいて当たり前のように言う。
「日向さん、……なんで?」
「散歩がてら会いに来た」
「散歩って……、飛行機に乗って?」
日向さんは「もしも俺の家があそこにあったら宇宙船だな」と月を指さした。

「団子食べる?」
視界に入った公園を指さし言った俺を、
「会っていきなり団子かよ」
彼は呆れたように笑ったけれど、
夜露に湿ったベンチに腰掛け二人で見上げた月は、泣きたいくらい丸かった。



(2019.9.13 twitter投稿)
秋の小次健:団子を食べながら月見をする
#同棲してる2人の日常 https://shindanmaker.com/719224

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133.『行かないで、と言った』(名刺SSテキスト版)

「若島津、頼みがある」

一度開けたドアを閉めて彼が言った。

「『行くな』って言ってくれ」
「え?」
「言われても行くけどな」
「…………」
「頼む」

ということで、俺は今「行かないでごっこ」をしているわけだけど……、

「じゃあな」
「日向さん、行かないで」
「それは無理だ」
「行かないで。日向さん」
「わがまま言うな」
「行かないで」
「頼む。困らせないでくれ」

こんな感じ。ほんとバカバカしい。
俺は棒読みだし、彼はにやけてるし、何やってんだろうなぁ。

だけど、「これで最後ね。飛行機に乗り遅れるから」の後の「行かないで」は最後まで言えなかった。
彼の唇が言わせてくれなかったから……。

「行きたくねぇのか、連れて行きてぇのか、どっちなんだろうな」
「日向さん」
「なんだ?」
「行ってらっしゃい。次に会う時は部屋を温めて待っています」




(2019.9.12 twitter投稿)
あなたは『「行かないで」と言われて顔が緩む』小次健のことを妄想してみてください。
https://shindanmaker.com/450823


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132.『鮮明』(名刺SSテキスト版)

ギリギリ過ぎて、正直、あの時何を思ってどんなプレイをしていたのかはっきり覚えていない。
時の経過と共に、その時本当にそう思ったのか、後からくっつけたのか、わからなくなることもある。

だけど、何年経っても薄らぐことのない光景がある。

「キーパー交替だ」

俺は忘れない。
後ろに傾きかけた身体を、グイと前に戻してくれた瞳の色とあの声を────。




(2019.9.10 twitter投稿)
小次健への今日の漢字テーマ【鮮明[せんめい]/色や形があざやかではっきりしていること(さま)】#漢字テーマ https://shindanmaker.com/731136

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131.『ティーカップ』(名刺SSテキスト版)

日向さんを見送って三ケ月。
空の色も風の匂いも秋に変わった。
久しぶりに会った若島津は少し髪が伸びていて、それから、すこし痩せたように見えた。

「痩せた?」
「痩せてないよ」
「そう?」
「今日、体重測ったからわかる。ウェイトは落ちていない」
「じゃあ、気のせいだね」
「そうだよ」

言いながら、若島津はティーカップの中に角砂糖を一つ落とした。
そのあとくるくると銀のスプーンで渦を作りながら、何を思ったか、小さく肩の位置を上げ数回揺らした。

「反町、俺が寂しがってるとか思ったの?」
「別にそういうんじゃないけど……。俺が寂しいのかも」
「あの人、キャラ濃いからねぇ」
「だよね」
「だけど…」
「なに?」
「電話もくれる。メールもくれる。だから、幸せだよ」

そこにどんな言葉があるのか俺にはわからないけれど、傾けたカップに隠すように「こんなこと、反町にしか言えない」と言ってくれたから……。

若島津より先に伝票に手を伸ばし、若島津のカップが空になるのを待って俺は椅子を引いた。

「なんとなく、だよ。なんとなく」




(2019.9.10 twitter投稿)
小次健さんは『幸せだよ』という台詞を使って、絵または漫画、小説を描いて(書いて)ください。
#台詞で創作 https://shindanmaker.com/524618


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130.『白い部屋』(名刺SSテキスト版)

茶箪笥からくすねた煎餅を持ち、途中、「走らないで」と看護師さんに注意され、「すみません」のあと五歩歩き、そのあと二段飛ばしで階段を上り、ドアを開けたらおばさんが口の前で人差し指を立てた。

「すみません」頭を下げると
「ごめんなさいね」おばさんが言った。
「いえ」

もう一度頭を下げると、何かを思い出したように「そうだったわ」と立ち上がった。
「ちょっとお願いしてもいいかしら」

おばさんは俺が差し出した煎餅の袋を静かに枕元に置いて、変わりに花瓶を持ち上げた。
上下する胸を手で確かめ、心臓が血液を送りだす音を耳で聞いた。消毒薬の匂いに少し鼻の奥がツンとしたけれど、トクトク伝わる音に匂いは薄くなっていった。
そのうち瞼が重くなってきて、気づいた時には煎餅を咥えたあいつが俺を見下ろしていた。

「あ、ごめん」
「ううん」

声に合わせてふわりと黒い髪が揺れた。

「ありがとう。キャプテン、これおいしいね」

前髪を瞳を隠すと同時に、パリッと音がした。



(2019.9.9 twitter投稿)『この街』収録……再録本発行により修正したものを掲載しています。小次健さんは「寝る」をテーマに(しかしその語を使わずに)140SSを書いてみましょうhttps://shindanmaker.com/430183



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129.『震える』(名刺SSテキスト版)

隙間なく数式が並ぶ紙にペンを走らせる。

「若島津」

頭の上から聞こえた声に顔を上げた。

「なに?」と俺が言うより先に彼の中指が顎の下に滑り込み、聞くことも、拒むことも出来なかった。

「おまえが違うと思うなら殴れ」

震える彼の唇に自分の震えを重ねると、頬も、首も、指先まで濡れた────。




(2019.9.9 twitter投稿)
小次健さんは「キス」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう
https://shindanmaker.com/430183





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128.『酢豚』(名刺SSテキスト版)

……あ。

食洗機に皿を突っ込みかけて手を止めた。
皿の上には何もなかった。
知らなかったわけじゃねぇけど、なんで気づかなかったのかわかんねぇけど、至って普通に食っていたし、「美味しい」という言葉までくっついていたから……。

「悪かったな」
「なにが?」
「酢豚にパイン入れちまった」

「あー、あれ」と言ってから、何かを思い出したようにあいつは肩を揺らした。

「寮にいた頃みたいにパインだけあんたに食べてもらうのもいいなぁと思ったんだけどね、なんか、勿体無くてさ」



(2019.9.8 twitter投稿)
あなたは『嫌いな食べ物を文句も言わずに食べ続ける』小次健のことを妄想してみてください。
https://shindanmaker.com/450823





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