C翼二次創作/小次健love!  

132.『鮮明』(名刺SSテキスト版)

ギリギリ過ぎて、正直、あの時何を思ってどんなプレイをしていたのかはっきり覚えていない。
時の経過と共に、その時本当にそう思ったのか、後からくっつけたのか、わからなくなることもある。

だけど、何年経っても薄らぐことのない光景がある。

「キーパー交替だ」

俺は忘れない。
後ろに傾きかけた身体を、グイと前に戻してくれた瞳の色とあの声を────。




(2019.9.10 twitter投稿)
小次健への今日の漢字テーマ【鮮明[せんめい]/色や形があざやかではっきりしていること(さま)】#漢字テーマ https://shindanmaker.com/731136

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131.『ティーカップ』(名刺SSテキスト版)

日向さんを見送って三ケ月。
空の色も風の匂いも秋に変わった。
久しぶりに会った若島津は少し髪が伸びていて、それから、すこし痩せたように見えた。

「痩せた?」
「痩せてないよ」
「そう?」
「今日、体重測ったからわかる。ウェイトは落ちていない」
「じゃあ、気のせいだね」
「そうだよ」

言いながら、若島津はティーカップの中に角砂糖を一つ落とした。
そのあとくるくると銀のスプーンで渦を作りながら、何を思ったか、小さく肩の位置を上げ数回揺らした。

「反町、俺が寂しがってるとか思ったの?」
「別にそういうんじゃないけど……。俺が寂しいのかも」
「あの人、キャラ濃いからねぇ」
「だよね」
「だけど…」
「なに?」
「電話もくれる。メールもくれる。だから、幸せだよ」

そこにどんな言葉があるのか俺にはわからないけれど、傾けたカップに隠すように「こんなこと、反町にしか言えない」と言ってくれたから……。

若島津より先に伝票に手を伸ばし、若島津のカップが空になるのを待って俺は椅子を引いた。

「なんとなく、だよ。なんとなく」




(2019.9.10 twitter投稿)
小次健さんは『幸せだよ』という台詞を使って、絵または漫画、小説を描いて(書いて)ください。
#台詞で創作 https://shindanmaker.com/524618


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130.『白い部屋』(名刺SSテキスト版)

茶箪笥からくすねた煎餅を持ち、途中、「走らないで」と看護師さんに注意され、「すみません」のあと五歩歩き、そのあと二段飛ばしで階段を上り、ドアを開けたらおばさんが口の前で人差し指を立てた。

「すみません」頭を下げると
「ごめんなさいね」おばさんが言った。
「いえ」

もう一度頭を下げると、何かを思い出したように「そうだったわ」と立ち上がった。
「ちょっとお願いしてもいいかしら」

おばさんは俺が差し出した煎餅の袋を静かに枕元に置いて、変わりに花瓶を持ち上げた。
上下する胸を手で確かめ、心臓が血液を送りだす音を耳で聞いた。消毒薬の匂いに少し鼻の奥がツンとしたけれど、トクトク伝わる音に匂いは薄くなっていった。
そのうち瞼が重くなってきて、気づいた時には煎餅を咥えたあいつが俺を見下ろしていた。

「あ、ごめん」
「ううん」

声に合わせてふわりと黒い髪が揺れた。

「ありがとう。キャプテン、これおいしいね」

前髪を瞳を隠すと同時に、パリッと音がした。



(2019.9.9 twitter投稿)『この街』収録……再録本発行により修正したものを掲載しています。小次健さんは「寝る」をテーマに(しかしその語を使わずに)140SSを書いてみましょうhttps://shindanmaker.com/430183



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129.『震える』(名刺SSテキスト版)

隙間なく数式が並ぶ紙にペンを走らせる。

「若島津」

頭の上から聞こえた声に顔を上げた。

「なに?」と俺が言うより先に彼の中指が顎の下に滑り込み、聞くことも、拒むことも出来なかった。

「おまえが違うと思うなら殴れ」

震える彼の唇に自分の震えを重ねると、頬も、首も、指先まで濡れた────。




(2019.9.9 twitter投稿)
小次健さんは「キス」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう
https://shindanmaker.com/430183





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128.『酢豚』(名刺SSテキスト版)

……あ。

食洗機に皿を突っ込みかけて手を止めた。
皿の上には何もなかった。
知らなかったわけじゃねぇけど、なんで気づかなかったのかわかんねぇけど、至って普通に食っていたし、「美味しい」という言葉までくっついていたから……。

「悪かったな」
「なにが?」
「酢豚にパイン入れちまった」

「あー、あれ」と言ってから、何かを思い出したようにあいつは肩を揺らした。

「寮にいた頃みたいにパインだけあんたに食べてもらうのもいいなぁと思ったんだけどね、なんか、勿体無くてさ」



(2019.9.8 twitter投稿)
あなたは『嫌いな食べ物を文句も言わずに食べ続ける』小次健のことを妄想してみてください。
https://shindanmaker.com/450823





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127.『肉屋のコロッケ』(名刺SSテキスト版)

目覚めると、太陽は高いところにあった。
時計を見る代わりにテレビをつけたら見慣れた風景が目に飛び込んだ。
駅、商店街、グラウンド…。
画面の中の案内人とベッドの中の男を代わる代わる見る。

「随分経ってるんだけどな」
「同じ人には見えないね」
「うっせーよ」

顎が外れるくらい大欠伸をし、ボサボサの髪を掻く姿に、
テレビに映る無駄に格好いい彼も、だらだらのパジャマ姿の彼も、全部自分のもんなんだぜ、と思う俺は、かなりイかれていると思う。

「コロッケ食いてぇなぁ」
「なに? 急に」
「ほら」

画面の中の彼が肉屋の前で言った。

『ここのコロッケが美味いんですよ。帰省の時のお約束と言うか、若島津とよく買い食いをしました』

「なるべく名前を出さないように気をつけてたつもりなんだけどよ、おまえがいない時間を探す方が大変だ」

だれた欠伸に紛らすようにして、聞き流せるくらいの軽さで、俺の心を揺らす彼が好きだ。




(2019.9.7 twitter投稿)
今日の小次健 
二人とも寝巻きのまま一日中ごろごろする。録画していたテレビを見ておいしいものを食べた。
#今日の二人はなにしてる https://shindanmaker.com/831289



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126.『秋だなぁ』(名刺SSテキスト版)

ベッドの中でバスルームからする水音に耳をすませる。

最初に首を右に傾け、左側から洗う。
次に、少し顎を上げ、喉を通り泡は右側に移動する。
それから、左腕、胸、右腕、腰………、
我ながらよく覚えていると思うのだが、日々繰り返される同じ動作の中にある順番が変わることは殆どない。

バスルームのドアが開く音がした。
近くなる足音に俺は目を瞑る。
(ばーか。そんなに見るなって)
シャンプーと石鹸の匂いがそれを教えてくれた。

「ただいま……」

ぐいと手をひくと、あいつは予想通りの顔で予想通りのことを言った。

「起きてたの?」
「起こされた」
「待っててくれてた、とか?」
「寝ないで待っていてほしいか?」

あいつは、ううん、と首を横にふり、「シーツが冷たいよりはいい」とベッドに滑り込んだ。

「コンビニで肉まん売ってたぞ」
「おでんもそろそろだね」
「そのうち葉も落ちて」
「いつの間にか冬になる」
「もうちょいゆっくり進めばいいのにな」
「時の経つのが早すぎる。……だけど」
「だけど?」
「秋は好きだよ」

こんな静かな夜は、ただ、肌の温もりや匂いを感じ、眠りにつくのも悪くない。

少し時間をおいて、
「どこか行きたい所はあるか?」
俺が言った時にはあいつは寝息を立てていた。

秋だなぁ…。



(2019.9.4 twitter投稿)リメイク

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125.『芸術の秋』(名刺SSテキスト版)

美術の時間に自画像を描いた。
ホント俺って目付き悪ぃな、なんて思いながら「へのへのもへじ」に毛が生えたようなもんを描いて時間をやり過ごす。
右斜め前方で鉛筆を走らすあいつは真剣そのもので、「綺麗な顔してるよなぁ~」と眺めていたらバチッと目があった。
「見るなよ、バーカ」と目で言って、あいつは黙々と鉛筆を走らせた。
どんなの描いてるんかなぁ。
ヨッシャ。俺も真面目にやるか。

「日向さん、見せて」
「やだね。おまえが先に見せろ」
「やだ」
「見せろって」
「あんたが先に」
「あ」「あ」

げーっ。誰だよ、これ。
いくらなんでもひどくねえか?
こいつの目には鏡に写る自分がこう見えるのか?

「そっくりだろ?」
「や、そんなに不細工じゃねえし」
「人の絵に文句つけんなよっ!あんただって」
「そっくりだろ?」
「そんな顔してないよっ。もっと目だって鼻だって……」
「んだよ?」
「……か、かっこいい、よ」

バカップル炸裂した芸術の秋だった。




(2019.9.1 twitter投稿)リメイク





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124.『Othello』(名刺SSテキスト版)

いつからあるのかわからない古いオセロのゲーム盤。
談話室で向かいあい白と黒を増やしていく。
俺が黒であいつが白。

「角とられると巻き返せねぇな」
「そう?」

黒い丸が白く代わり、つぎつぎ場所を増やしていった。
まるで自分を見ているようだ。
胸の中、おまえの場所がどんどん増えていく。

「ほら、頭つかって巻き返してみてよ」

カチャカチャと手のひらの中でプラスチックの転がる音がする。
余裕の笑みが悔しくて、だけど、とうてい敵わない。

「巻き返し不可能」
「らしくない。全部おまえがひっくり返す」
「よく考えなって。まだまだ勝負は終わってないよ」

認めたくはないが完敗だ。

「俺はおまえでいっぱいだ」
「…………」

若島津はオセロを一枚摘まんで言った。

「日向さん、これ、黒と白、二つで一つだよ」
「…………」
「……部屋、行こっか」




(2019.8.22 twitter投稿)初出2007.7


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123.『あの場所に帰る』(名刺SSテキスト版)

——忘れものない?
母は同じ言葉を繰り返し、
——にーちゃん、今度いつ来るの?
弟達も同じ事を言い、
「父ちゃん、また来ます」
写真の中の親父に俺も同じ事を言った。
呼鈴が鳴り、若島津が迎えに来た。
これも去年と同じ。

「日向さん、ゆっくり出来た?」
「出来た」
「出かけたりした?」
「灯籠流し」
「俺も行ったよ」
「会わなかったな」

そこで若島津はクスと笑った。

「年に10日くらいしかないね」
「何がだ?」
「会わない日」

言われてみればそうだなぁ。

「お前が東邦に来なかったら、逆だったな」と言ったら、若島津はトンと肘をぶつけてきて、「逆じゃなくてよかった」と笑った。

駅へと向かう道を朝の光が照らす。
空には昨夜の月がまだ残っていた。
毎日通ったグラウンドの脇を通り、まだシャッターの上がらない商店街を抜け、駅前の自販機でコーラを買った。
プルトップを引くとプシュと炭酸が弾けた。

「頑張るっきゃねーな」
「頑張りましょう、キャプテン」

いつの間にか、月は消えていた。





(2019.8.18 twitter投稿)
小次健さんは「誕生日」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう
https://shindanmaker.com/430183



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