目覚めると、太陽は高いところにあった。
時計を見る代わりにテレビをつけたら見慣れた風景が目に飛び込んだ。
駅、商店街、グラウンド…。
画面の中の案内人とベッドの中の男を代わる代わる見る。
「随分経ってるんだけどな」
「同じ人には見えないね」
「うっせーよ」
顎が外れるくらい大欠伸をし、ボサボサの髪を掻く姿に、
テレビに映る無駄に格好いい彼も、だらだらのパジャマ姿の彼も、全部自分のもんなんだぜ、と思う俺は、かなりイかれていると思う。
「コロッケ食いてぇなぁ」
「なに? 急に」
「ほら」
画面の中の彼が肉屋の前で言った。
『ここのコロッケが美味いんですよ。帰省の時のお約束と言うか、若島津とよく買い食いをしました』
「なるべく名前を出さないように気をつけてたつもりなんだけどよ、おまえがいない時間を探す方が大変だ」
だれた欠伸に紛らすようにして、聞き流せるくらいの軽さで、俺の心を揺らす彼が好きだ。
(2019.9.7 twitter投稿)
今日の小次健
二人とも寝巻きのまま一日中ごろごろする。録画していたテレビを見ておいしいものを食べた。
#今日の二人はなにしてる https://shindanmaker.com/831289
[2回]
ベッドの中でバスルームからする水音に耳をすませる。
最初に首を右に傾け、左側から洗う。
次に、少し顎を上げ、喉を通り泡は右側に移動する。
それから、左腕、胸、右腕、腰………、
我ながらよく覚えていると思うのだが、日々繰り返される同じ動作の中にある順番が変わることは殆どない。
バスルームのドアが開く音がした。
近くなる足音に俺は目を瞑る。
(ばーか。そんなに見るなって)
シャンプーと石鹸の匂いがそれを教えてくれた。
「ただいま……」
ぐいと手をひくと、あいつは予想通りの顔で予想通りのことを言った。
「起きてたの?」
「起こされた」
「待っててくれてた、とか?」
「寝ないで待っていてほしいか?」
あいつは、ううん、と首を横にふり、「シーツが冷たいよりはいい」とベッドに滑り込んだ。
「コンビニで肉まん売ってたぞ」
「おでんもそろそろだね」
「そのうち葉も落ちて」
「いつの間にか冬になる」
「もうちょいゆっくり進めばいいのにな」
「時の経つのが早すぎる。……だけど」
「だけど?」
「秋は好きだよ」
こんな静かな夜は、ただ、肌の温もりや匂いを感じ、眠りにつくのも悪くない。
少し時間をおいて、
「どこか行きたい所はあるか?」
俺が言った時にはあいつは寝息を立てていた。
秋だなぁ…。
(2019.9.4 twitter投稿)リメイク
[2回]
美術の時間に自画像を描いた。
ホント俺って目付き悪ぃな、なんて思いながら「へのへのもへじ」に毛が生えたようなもんを描いて時間をやり過ごす。
右斜め前方で鉛筆を走らすあいつは真剣そのもので、「綺麗な顔してるよなぁ~」と眺めていたらバチッと目があった。
「見るなよ、バーカ」と目で言って、あいつは黙々と鉛筆を走らせた。
どんなの描いてるんかなぁ。
ヨッシャ。俺も真面目にやるか。
「日向さん、見せて」
「やだね。おまえが先に見せろ」
「やだ」
「見せろって」
「あんたが先に」
「あ」「あ」
げーっ。誰だよ、これ。
いくらなんでもひどくねえか?
こいつの目には鏡に写る自分がこう見えるのか?
「そっくりだろ?」
「や、そんなに不細工じゃねえし」
「人の絵に文句つけんなよっ!あんただって」
「そっくりだろ?」
「そんな顔してないよっ。もっと目だって鼻だって……」
「んだよ?」
「……か、かっこいい、よ」
バカップル炸裂した芸術の秋だった。
(2019.9.1 twitter投稿)リメイク
[2回]
いつからあるのかわからない古いオセロのゲーム盤。
談話室で向かいあい白と黒を増やしていく。
俺が黒であいつが白。
「角とられると巻き返せねぇな」
「そう?」
黒い丸が白く代わり、つぎつぎ場所を増やしていった。
まるで自分を見ているようだ。
胸の中、おまえの場所がどんどん増えていく。
「ほら、頭つかって巻き返してみてよ」
カチャカチャと手のひらの中でプラスチックの転がる音がする。
余裕の笑みが悔しくて、だけど、とうてい敵わない。
「巻き返し不可能」
「らしくない。全部おまえがひっくり返す」
「よく考えなって。まだまだ勝負は終わってないよ」
認めたくはないが完敗だ。
「俺はおまえでいっぱいだ」
「…………」
若島津はオセロを一枚摘まんで言った。
「日向さん、これ、黒と白、二つで一つだよ」
「…………」
「……部屋、行こっか」
(2019.8.22 twitter投稿)初出2007.7
[1回]
——忘れものない?
母は同じ言葉を繰り返し、
——にーちゃん、今度いつ来るの?
弟達も同じ事を言い、
「父ちゃん、また来ます」
写真の中の親父に俺も同じ事を言った。
呼鈴が鳴り、若島津が迎えに来た。
これも去年と同じ。
「日向さん、ゆっくり出来た?」
「出来た」
「出かけたりした?」
「灯籠流し」
「俺も行ったよ」
「会わなかったな」
そこで若島津はクスと笑った。
「年に10日くらいしかないね」
「何がだ?」
「会わない日」
言われてみればそうだなぁ。
「お前が東邦に来なかったら、逆だったな」と言ったら、若島津はトンと肘をぶつけてきて、「逆じゃなくてよかった」と笑った。
駅へと向かう道を朝の光が照らす。
空には昨夜の月がまだ残っていた。
毎日通ったグラウンドの脇を通り、まだシャッターの上がらない商店街を抜け、駅前の自販機でコーラを買った。
プルトップを引くとプシュと炭酸が弾けた。
「頑張るっきゃねーな」
「頑張りましょう、キャプテン」
いつの間にか、月は消えていた。
(2019.8.18 twitter投稿)
小次健さんは「誕生日」をテーマに(しかしその語を使わずに)140字SSを書いてみましょう
https://shindanmaker.com/430183
[1回]
縁側で兄がTシャツに短パン姿で団扇を扇いでいる。
捲った袖から伸びる引き締まった腕がたまらなく格好いい。
「にーちゃん、ご飯だよ」
「おお」
立ち上がった時に右肩が隠れた。
兄はそれをひょいと捲った。
「なんだよ、尊。俺の顔になんかついてるか?」
「別に。ただね」
遠い昔、学校で見た光景を思い出していた。
全小大会の翌日。
休み時間に校庭に行くと、やたらと袖を捲った人が多かった。
「友達に『尊くんのお兄さん格好いいね』って言われてさ。みんな真似しててさ。だけど、俺は恥ずかしくて」
言いかけたところで兄がニッと笑った。
「コツがあるんだぜ。ずり下がらないようにする。尊、特別に教えてやる」
俺のTシャツに手をかけた兄の手が温かくて、優しくて、大きくて……
「むかつく」
「んだよ、それ」
下げた目尻も、白い歯も、日に焼けた肌も、声も……
にーちゃん、格好よすぎるんだよっ。
(2019.8.17 twitter投稿)
[1回]
「せっかく会えたのに」
「気にすんな」
「誕生日なのに」
「別にめでたくねぇよ」
「だけど……」
何度も同じやりとりを繰り返し、何度も額の上のタオルを取り替え、何度も瞼にキスをした。
「余計熱が上がりそう」
あいつは言ったけど、
「目を瞑らないお前が悪い」
俺は言った。
「なんでこういう日に限って熱なんかだすかなぁ」
「こういう日だからだろ?」
誕生日に恋人の寝顔をずっと見ていられるのも悪くない。
(2019.8.15 twitter投稿)
わたしは、気が向いたら『眠る相手にそっとキスをする』小次健を描き(書き)ます。もちろんフォロワーさんがかいたっていいのよ。
https://shindanmaker.com/433599
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落書きですから〜。
拍手ありがとうございます。励みになります。
恰好いい×恰好いい 男前×男前
望めば他も手に入れられる人達なのにねー。
どちらかが寄りかかることなく対等なところがスキです。
役割はあるけど求め方の違いって言うか、好きの量は同じ♫
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